「キレイな姉ちゃんと、おいしいメシ。ホテルだけ用意してくれ」。この3条件を、出演ギャラとして提示したのは、“世界のキタノ”ビートたけしだ。“関西の視聴率男”にかねてから興味を示していたたけしは、昭和芸人を地で行くたかじんさんの生き方に心底、ホレていた。
しかし、たかじんさんは、東京芸人と東京で仕事をすることを、断固拒否してきた。ならばとたけしは、酒を飲みながら、台本なしのトークをかわす伝説の番組『たかじんnoばぁ〜』(よみうりテレビ/96年)の最終回に出演しようと決めた。動かない山にみずから歩み寄る形で、ガダルカナル・タカを用心棒に従えて、関西のローカル番組にやってきたのだ。
本番中から本気飲みだしたため、たかじんさんもたけしも、番組が終わるころにはベロベロ。その足で、約束通り、大阪・北新地に流れた。たかじんさんはみずからの唄をカラオケで熱唱したが、1番を唄い終わると同時に、記憶を失った。
たけしら一行は、ようやく解放されると喜びながら、忍び足で、店を出た。ホテルに戻る前に、うどん屋で腹ごしらえをした。のんびりとうどんをすすっていると、扉から怒鳴り散らしながら、たかじんさんが襲来。「見つけたぞ〜!」と、脅しにかかったが、そのあとには、たけしの付き人の服のポケットに、200万円の札束を放り込み、夜の新地で解散した。
その200万円は、「お車代」。たかじんさんはたけしに、ポケットマネーで出演ギャラを手渡したのだった。(伊藤由華)