去る5月21日(現地時間)、メジャーリーグ公式サイトが衝撃的なニュースを伝えた。昨秋、ブレーブスから1巡目指名を受けた快速右腕投手、カーター・スチュアートが福岡ソフトバンクホークスと契約したというのだ。
同サイトによれば、スチュアートは全米の野球ファンが注目する「期待の星」だったが、指名したブレーブスのメディカルチェックに引っかかった。そのため、契約金を安く抑えたいとする球団と、“適正額”を求めるスチュアート側の交渉は決裂。日本のドラフトでいえば、入団先が決まらないまま学校を卒業してしまった“ドラフト浪人”のような状況に陥っていたのだ。
ここで懸念されるのが、日本のプロ野球組織とメジャーリーグの間で交わされている「日米紳士協定」だ。両国とも、ドラフト会議にかかる有望なアマチュア選手は獲得しないという“約束”が交わされているのだ。ソフトバンクは日米協定を無視したことになる。メジャーリーグ側からの報復措置は免れないと思いきや、そうはならないらしいのだ。
「2008年、ドラフト1位候補だった田澤純一が社会人チームからそのままメジャー球団と契約し、日本のプロ野球界は以後、こうした選手に対してペナルティーを課すと決めました。昨季も日本のプロ野球を経由せずにメジャーリーグに挑戦した社会人投手が出現しました。菊池雄星、大谷翔平が高校卒業と同時にメジャーリーグ挑戦を試みようとしたのもそうですが、『メジャーリーグに挑戦したい』という有望アマチュア選手の気持ちは抑えられないと思います」(プロ野球解説者)
これまで日本のプロ野球チームは「強奪される側」だった。今回は「強奪した側」になった。しかし、こんな情報も交錯している。
「そもそも、日米の紳士協定なんかない。口約束であって、その話し合いをした当事者が誰なのかも分からないのが実情なんです」(球界関係者)
ソフトバンクはこうした状況を調査した上で「問題ナシ」と判断したのだろう。
「日本の高校野球、甲子園大会にはメジャースカウトが必ずいます。日本のアマチュア選手を獲得できないのに視察する理由は、どこにあるのか。彼らは日本の有望な高校生がメジャーリーグのドラフト会議にかけられる日が来ることを知っていたのだと思います」(前出・同)
つまり、形骸化した日米の紳士協定が完全に消滅し、近年中に、メジャーリーグ各球団は日本の有望高校生を自由に獲得できるようになる。その日に備えてデータを収集していたというわけだ。
「メジャーリーグのドラフト会議は6月。高校野球を仕切っている日本高校野球連盟は、夏の甲子園大会前に行われるので芳しくないとし、メジャーリーグの動きに非協力的です」(前出・同)
160キロを超す剛速球を投げ、日米スカウトを震撼させた佐々木朗希投手(大船渡)など、今年の高校生には好投手も多い。彼らが「メジャーリーグに行きたい」と明言した場合、ソフトバンクがスチュアートを強奪した報復があるかもしれない。
「アメリカの上位指名選手の契約金、年俸は日本のプロ野球の比ではありません。マネー戦争になったら、太刀打ちできない」(スポーツ紙記者)
NPBはメジャーリーグ側と話し合う必要がある。「日米紳士協定=口約束」の話が本当なら、日本のプロ野球界は問題の解決を怠ってきた大きな代償を払わされることになるだろう。
(スポーツライター・飯山満)