沖縄で恐らく一番知られている樹木と言えば、やはりガジュマルの木ではないでしょうか。樹冠は末広がりに伸びる枝に濃い緑の葉が繁茂し、枝からは気根という蔦状の根が多く地面へと下がっています。幹は多数分岐した上で、垂れ下がる気根や枝を取り込んで渾然一体となっています。
そもそもガジュマルの名前自体、沖縄の地方名です。由来はよく解っていませんが、幹や気根が「絡まる」様子から付けられた説、「風を守る」が訛って「ガジュマル」となったという説があります。
ガジュマルは昔から防風林や防潮樹、燃やした灰で作られる灰汁が沖縄そばの麺の製造に使われるなど、沖縄の人々の生活に密着した木であると言えます。その側面からでしょうか、ガジュマルの木にはキジムナーと言う精霊が住んでいると信じられています。
沖縄のガジュマルの中でも、代表的なものが名護の『ひんぷんガジュマル』でしょう。
ひんぷんガジュマルは、名護市内は名護城跡の近くにあります。目抜き通りのど真ん中に立っており、道路の方が道を譲るかたちになっています。高さは約19メートル、大きく茂った樹冠は車道に屋根をかけるほど大きく、左右に広がっています。
ひんぷんガジュマルの“ひんぷん”とは漢字で書くと“屏風”となり、沖縄では屋敷の正門と母屋との間に設けられた屏風状の塀の事を言います。この“ひんぷん”は外からの目隠しや入ってくる悪霊を防ぐものとされています。ひんぷんガジュマルの立っている所は、昔は目抜き通りの入り口にあたりましたから、それ故“ひんぷん”の名前がついたのかも知れません。
ひんぷんガジュマルの樹齢はおよそ300年。その為、名護の人々からすれば自分の子供の時から見守ってきてくれた町のシンボルでもあり、木の下には拝所(ウガンジュ ※沖縄で、神を拝む場所のこと)が設けられてあります。と言うのも、このひんぷんガジュマルは他のガジュマルと違い、女神様が住んでいると言われているからです。以前、ある人が記念式典でライトアップされたひんぷんガジュマルを撮った写真には、幹にはっきりと人に見える姿が写っていたそうです。この写真は実際に見せてもらいました。撮影した人も「光の加減じゃないかと思うけれど」と前置きした上で見せてくれたのですが…でも、沖縄の神女(ノロ)の格好をした白い人影(ただし首から上は不明瞭)にしか見えないものが写っていたんですよね…(その写真は掲載不可でした。済みません)。
昔から名護を見守ってきてくれているひんぷんガジュマル。ご神木故か、願いを叶えてくれるという話もあります。沖縄に来た際は一度訪れてみてはいかがでしょうか。
(黒松三太夫 山口敏太郎事務所)