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【不朽の名作】2週間で打ち切りとなった石原良純のデビュー作「凶弾」は駄作だったのか

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 今回は、1982年に公開された『凶弾』を紹介する。実はこの映画、銀幕のスーパーヒーロー石原裕次郎の甥にあたる石原良純のデビュー作となっている。今やお天気キャスターやバラエティータレントの印象が強いが、この当時はそれこそ、裕次郎の血縁者ということで大注目されていた。

 この作品は、70年に発生した「瀬戸内シージャック事件」を元にした福田洋著の小説『凶弾-瀬戸内シージャック事件』を原作としている。石原は主役の荒木英夫を演じており、最終的にシージャックをして、銃を乱射の末、射殺されるという役になっている。ちなみに、客は全く集まらず2週間で打ち切りとなった作品としても有名だ。

 という訳で、駄作だったのではという印象を持つ人はいるかもしれないが、そこまでではない。特に終盤のカーチェイスシーンは、今では再現不可能だろうと感じるほど派手で、かなり見応えがある。さらに、名優・若山富三郎がジャックされた船の船長・矢吹を演じており、銃を持った犯人を相手にドッシリと構えた姿は、かなり格好いい。石原の演技は、良くも悪くもバラエティーで荒っぽい言動をしている時の様子を、そのまま若くしたような感じで、この役には若干育ちが良さそうな雰囲気は出しつつも、まあ合っているかと。他の脇役も古尾谷雅人と山田辰夫他演じる荒木のチンピラ仲間もいい雰囲気だ。が、「これはどうなの?」というシーンがない訳ではない。

 タイトルに「凶弾」とあるが、おそらくこれは犯人の銃弾のことではない。警察機動隊の狙撃手が撃った弾がその凶弾にあたる。実在の事件では、よど号ハイジャック事件から間もなかったこともあり、左翼過激派の犯行も疑われていた。そういった経緯もあり、警察の決断も早く、テレビカメラが見守るなか「公開射殺」という状態での幕切れとなった。しかしその後、過激派とは関係ない不良グループの1人だったと明らかになり、狙撃手が殺人罪や特別公務員暴行凌虐罪で告発されるまで発展するなど、話題となった。

 そういった経緯を鑑みて、この作品では、当時犯人と同世代だった左翼過激派学生が、間違いだったとしても、自らの「信念」を持って罪を犯していたのに対し、頼るべき場所も思想もない、ただのチンピラだったこの事件の犯人が、どうして凶弾に倒れなければいけなかったのか? というシーンの描写が作品の肝となっている。しかし! 結果的にはこれ、「撃たれても仕方ないだろ!」とツッコミをしたくなりそうな展開となっているのだ。荒木が負傷者を出し過ぎ。史実では数人だった警官負傷者が、カーチェイスや銃撃のシーンを数えると明らかに多くなっている。これで「まだ、殺しはしていない」と警官が言うシーンがあるのだがとても信じられない。一応、銃弾で撃たれる警官は全てライフルではなく、散弾銃で撃たれてはいるのだが、明らかに身を乗り出して腹の部分を撃たれた警官もいるのに大丈夫だったのだろうか?
 
 あとは、シージャックに至るまでのシーンが長いので、退屈と言えば退屈だ。前半で、高樹澪演じる路上をさまよう娘・水谷宏美を拾い、その後、恋愛描写のようなシーンがあるのだが、これは必要だったのだろうか? 一応荒木が、望まない子を妊娠し、流産しようと思う水谷を、相手の男の暴力で子供を流産してしまった姉と重ね合わせて、力になろうとするシーンではあるのだが、「俺がそいつの父親になってやる」と言いつつ、明らかに安定期に入っていない妊婦とSEXするのはどうなのだろう。流産させる気なんじゃなかろうか。まあ、直接的な描写はなく、裸で一緒のベッドに寝てただけで、真相は定かではないけれど。

 前半で荒木が、チンピラ仲間と、銀行強盗を実行してはどうかと話す部分。路上で水谷を拾うというあたりから予測すると、この作品は『俺たちに明日はない』のようなアメリカン・ニューシネマ的なストーリー展開を狙っていたのかも知れない。観ていると明らかにその方向に寄せようとしているシーンもある。しかし、「犯人はこんなに可哀想な境遇だったんだよ!」「警察は哀れな若者の話を聞かないし、乱暴なんだ!!」と言わんばかりの、犯人側に寄りすぎな描写が多すぎて、バッドエンドに向かっていく“不条理”さが足りない。史実でも殺人罪で告発された後、正当防衛が認められたのだから、もっと警察側、特に狙撃手にスポットを当てる機会があれば良かったのではないだろうか。それにより「仕方ないことだった」という部分が強調され、ラストはもっと虚しさを演出できたかもしれない。

 個人的な意見だが、バトルシーンは派手だったので、原作を65年に発生した「少年ライフル魔事件」を元にした、主役の父親である石原慎太郎著の『嫌悪の狙撃者』辺りにしていれば、石原のデビュー作は、もっと凄い映画になったのではないだろうか? 監督も『西部警察』や『あぶない刑事』などで有名な村川透監督だった訳だし。まあ、刊行年から考えて無理だろうけど…。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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