主人公セイはオーバードラッグとリストカットによる自殺未遂を繰り返す青年であるが、ある自殺未遂後に他の自殺未遂常習者と一緒に見知らぬ孤島に放置された。文明も秩序もない無人島で狩猟採集など主人公達のサバイバル生活が展開される。
セイは弓矢の知識を基に自作の弓矢で狩猟し、それによって生命の尊さを認識していく。すっかりたくましくなったセイであったが、セイの所属するグループは内部でメンバーに自殺を勧める確信犯的人物が暗躍し、港側の無法集団とも対立して内憂外患に悩まされる。
この巻でセイは絶望から死んだ方がいいと自殺を勧める確信犯的人物の正体に気付く。しかも、その人物は自殺を勧めるだけでなく、一歩進んで自殺に踏み切れない人物を殺していた。彼の論理は一方的に悪と決めつけられないもので、生きることに目覚めたセイは異論を抱きつつも相手を論破できなかった。両者の主張は平行線のまま、無法集団の襲撃という事態を前に不完全燃焼になった。
ここには過酷な現実に対処するためには「生きるべきか死ぬべきか」という哲学問答の余裕さえないというリアリティがある。しかし、自殺の是非は作品の根幹をなす倫理的問題である。生きることに目覚めたセイと自殺推奨者の思想対決の結着は今後に期待したい。
無法集団との対決では、仲間を守るために敵を傷つけなければならないという選択を迫られる。悪辣な無法者は同情に値しないが、それでも主人公が悩むところに作品のヒューマニズムがある。最後は自殺未遂者の心の傷に直面するエピソードである。サバイバルと内面描写のバランスが取れたストーリーになった。
(林田力)