「誰もが驚く強烈なインパクトがあり、長嶋ジャパンの超目玉になるし、江川にとっては巨人監督への重要なワンステップになる。それなのに、江川の方が断ってきた。長嶋さんの親心がわからない、親不孝者だよ、アイツは」
長嶋人脈の球界OBはこう吐き捨てた。
実は、掛布氏にも同じような現場復帰のチャンスがあった。千葉を本拠地にしたロッテが地元・習志野高校出身の元ミスター・タイガースにアプローチ、「将来の監督含みの話で打撃コーチに就任してほしい」と要請したのだ。しかし、掛布氏の言葉にロッテ関係者は絶句したという。「僕はコーチの器ではありませんから」と断ったのだ。つまり「僕は監督の器ですから、コーチはやりません」ということなのだろう。
アテネ五輪日本代表・長嶋監督が究極の案として、江川ヘッドコーチを招請、巨人監督へのステップにしてあげようとしたのに引き受けなかったのと、全く同じだ。江川氏、掛布氏の頭の中には「監督」しかないのだろう。
現役引退の際も元祖・怪物投手とミスタータイガースは酷似した道を歩んでいる。故障禍もあったが、88年に33歳の若さで電撃引退、チーム内に波紋を呼んだ掛布氏。尊敬する千葉の大先輩、長嶋氏には電話で相談した事実を後日、明かしている。テレビ、スポーツ紙共に巨人系列に籍を置いたのも、長嶋氏の影響からだといわれている。
江川氏の方は、1年早く87年に13勝しながら、突然引退を表明している。「ボロボロになっている右肩の禁断のツボにハリを打った」という問題発言に対し、鍼灸師たちが怒り抗議の声を上げたことに、謝罪する一幕まであった。
余力を残しながらの電撃引退劇。そして、人気ライバル球団の巨人、阪神の元スター選手として年間、億単位のギャラをもらいながら派手なタレント活動を展開する。これでは、とても安い年俸でコーチを経験して、管理職を勉強する気にはならないのが人情か。
想像するに、2人の頭の中には中日、阪神で監督を務め成功した星野仙一氏と、中日・落合博満監督の存在があるのではないか。「コーチを経験しなくても、星野さん、落合さんは監督として実績を上げたのだから、我々にもできるはずだ。できないワケがない」という思いだ。星野氏は北京五輪日本代表監督として大火傷したが…。
「日本のプロ野球の監督はたった12人しかいない。自分がなりたくてもなれるワケではない。縁とか、その時のタイミングが合わなければ、なれるものではない。だからコーチとして呼ばれたら、喜んで行くべきだ。そこから監督への道が開けることもあるのだから」
コーチ、監督を経験した球界OBの、この言葉には実感がこもっている。
現実に「将来の監督含みのコーチの話を蹴った、あれが最大の過ちだった」と悔やむ球界OBもいる。元祖・怪物投手VSミスタータイガースという2人のライバルに、野球人生の最終章で奇跡の大逆転ドラマは起こるのか。