老婆心ながら、テレビの前でビクともしない彼を見て、大丈夫だろうかと思っていた。だが、初騎乗を終えての第一声。「ふざけんなーって感じですよ!!」と、アドレナリンを大放出。ビックリするくらいイキのいい声が返ってきたことに、何だか安心した。
初日は2鞍騎乗してともにビリ。ちなみに第一声の「ふざんけなー」は1R、「横を見たら誰もいなかった」というほど見事な出遅れからきたものかもしれない。3回目の騎乗は南関が誇るトップジョッキー・内田博騎手からの乗りかわりで何と2番人気に。初勝利が期待されたが、またもや出遅れ。前半で一気に押し上げたツケがきて、最後は脚が上がり、結果はブービーだった。
現実は厳しい。それでもめげずに、毎日午前2時起きで調教騎乗に励んでいる。寝不足に加え、プライベートもないが、「今は馬でいっぱい」と若武者は語る。そんな愛弟子を一本気な男と坂本昇師はいう。
「考える人」は地獄の門にたたずみ、「汝(なんじ)等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ」と問いかける。厳しい勝負の世界は地獄か、はたまたその先に光が見えるのか…。検量室の“考える人”濱田騎手は、今日もじっとレースを見つめ、研究に没頭している。