search
とじる
トップ > トレンド > 「西田隆維の映画今昔物語」 第11幕「豚と軍艦」

「西田隆維の映画今昔物語」 第11幕「豚と軍艦」

 《今日のテーマ》「大霊界…」

 監督は今村昌平さん。長門裕之さん、吉村実子さん主演で1961年公開の映画です。僕自身、今村監督映画の鑑賞は『うなぎ』についで二作目です。が、モノクロ映画は初めてでした。

 レンタルショップで手に取った当初は、「カラーに慣れた僕の眼にどのようなギャップがあるのか」又、「物足りなさがあるのかな」と思いましたが、どうしてどうして。素晴らしい作品においては「モノクロ」「カラー」など、どうだっていい話です。何時の時代になっても「名作は名作」なのだと痛感させられました。なるほどスポーツの世界では記録がどんどん塗り替えられていき、常に現代と向き合っております。しかしながら、芸術、映画、音楽、美術の世界では、昔の作品が突然ピックアップされる事もあるのです。
 そもそも芸術関連作品には時代を反映した物 が多く、その作品を観る事により当時の出来事が今、新たな発見などにつながるケースが良くあります。

 さて、物語のあらすじです。
 横須賀の売春小屋を経営していたヤクザ達はある日摘発されるのです。当時の横須賀は米軍の残飯を流用した養豚業でひと儲け目論んだヤクザ達、生計を立てるため米兵に体を許していたオンナ達…とそれぞれが毎日を全力で生きていたのです。そんな中、ヤクザの手下で常日頃からひと儲けする事に執着していた欣太という青年がいました。その彼は何故か売春婦・春子に愛されるのです。春子は「質素でも良いから欣太と幸せになりたい」と、一途な愛を貫き、彼の邪な考えを懸命に改めさせようとするのです。
 この物語で、僕の目を引いたのが面白さと強面キャラの両極端で中間がない役を演じていた欣太の兄貴分・丹波哲郎さん演じる「人斬り鉄次」です。ある日、鉄次はかねてからの腹痛に堪えられず、病院へ行きます。病名は「胃潰瘍」。にもかかわらず、鉄次は「胃癌」だと思い込み落胆し、絶望するのです。自分の命は長くはないと思い込む鉄次は電車への飛び込み自殺を試みますが、死に切れません。飛び込みを敢行しようとはするものの、いざ電車が迫ってくると線路に出ても逆戻り。線路際の看板にしがみつき、助かるのです。
 僕は、この時の丹波さんの演技も素晴らしいですが、演出の妙に「泣かされ」ました。鉄次がしがみついた看板とは「日産生命」といい、今作のスポンサーをしている「生命保険会社」です。生命保険の看板に自殺志願者がしがみつく、というウィットに効いたシャレはかなりのセンス。しかも「あぶない刑事」バリのスポンサー前面出しは、「これこそアドリブの走り」だと思い、勉強になりました。
 どう考えても「自決は無理」だという事に気付いた鉄次は中国人マフィアに接近します。マフィアにカネを渡した鉄次は、大胆にも「俺を殺してくれ」と依頼するのです。ところがここからがギャグ。何と、鉄次が渡した紙幣は「偽札」。インチキのドル札だったのです。
 これにマフィアは素早く反応し「偽ドル札はダメネー」と鉄次に紙幣の交換を求めてきたのです。それに対し、鉄次はマフィアが殺しにやってきたと勘違いし、その場から逃走するのです。「俺を殺せ!」と依頼した張本人が「俺は殺される」と思い、「逃げる」というオチは面白すぎます。ちなみに鉄次は「組の“かしら(ナンバー2)”」役です。ナンバー2がこの体たらくなのです。

 終わりに生前、丹波さんは「霊界は素晴らしい所」と語っていたのを皆さん、記憶していることでしょう。それが一転、今作では「死ぬ事に臆病になり逃げて逃げて逃げまくる」役です。
 言っている事とやっている(演じている)事のギャップが、丹波さんのキャラに相まって実に愉快です。

監督:今村昌平
《出演》
長門裕之、吉村実子
三島雅夫、丹波哲郎
小沢昭一、山内明
加藤武、殿山泰司
西村晃、南田洋子
中原早苗

<プロフィール>
 西田隆維【にしだ たかゆき】 1977年4月26日生 180センチ 60.5キロ
 陸上超距離選手として駒澤大→エスビー食品→JALグランドサービスで活躍。駒大時代は4年連続「箱根駅伝」に出場、4年時の00年には9区で区間新を樹立。駒大初優勝に大きく貢献する。01年、別府大分毎日マラソンで優勝、同年開催された『エドモントン世界陸上』日本代表に選出される(結果は9位)。
 09年2月、現役を引退、俳優に転向する。10年5月、舞台『夢二』(もじろう役)でデビュー。ランニングチーム『Air Run Tokyo』のコーチも務めている。

関連記事

関連画像

もっと見る


トレンド→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

トレンド→

もっと見る→

注目タグ