1908年に目撃された時は、この怪物は獲物としてカリブー(トナカイの一種)を仕留めたようで、獲物を大きな口にくわえたまま凍った川の上を渡っていく姿が目撃されている。
この生物の大きさは約50フィート(約15メートル)あり、体色は黒一色。イノシシのような剛毛の鬣など、随所に毛が生えていたようだ。歩行は後足での二足歩行、鋭い牙と鼻先に角が生えていたとされている。
このニュースは「カナダで生きている恐竜が目撃された!?」としてイギリスの大衆紙ストランド・マガジンほか、様々な文献で取り上げられた。実際、当時の文献では脚部など随所に長い毛を生やしたケラトサウルスによく似た姿の怪物の絵が描かれている。これはおそらく「鼻の上に一本角がある」二足歩行の巨大生物、という点から想像されたものなのだろう。現代では恐竜についても研究が進み、恒温動物説や羽毛があったという説が出てきているが、それでも厳冬のカナダで生息し続けるには無理があるだろう。
さて、1918年に広文社より発行された『世界の奇聞全集』にはよく似た生物の目撃情報が「北極圏の恐角獣」として紹介されている。ちなみにこの『恐角獣』はある古生物の名前を和訳したものであった。その名はウィンタテリウム、新生代に北アメリカやアジアと広範囲にわたって生息していた草食獣だ。頭頂部から鼻にかけて6本の角があり、大きなサーベル状の犬歯を持っている。見た目はサイに似ているがあくまで別の種類の生物である。確かにウィンタテリウムであれば寒い土地でも活動できるかもしれないが、ウィンタテリウムは先述の通り草食獣である。また四足歩行の生物であり、大きさも3メートルほどしかない。そのため、目撃証言にあるようにトナカイを獲物にしたり、口にくわえたまま二足歩行することなど不可能なのだ。
パートリッジ・クリークで目撃された怪物は何だったのだろうか?
もしかしたら、我々の知らない未知の巨大生物が凍土の向こうに今でも生息しているのかもしれない。
写真:当時の新聞に掲載された挿絵
文:和田大輔 取材:山口敏太郎事務所