世界ランク1位といえど、おくすることはなかった。07年マレーシアオープンで、あと1点のところまで追い詰めていたからだ。前田はその時の状況を、鮮明に記憶している。
「1点の重みが分かりました。でも(アテネ五輪後)ラリーポイントにルールが変更になって、(もう1度対戦すれば)勝てるチャンスはあると思ってました」
待ちに待ったリベンジのチャンス。しかし、やはり世界ランク1位の実力はケタ違いだった。しかも舞台は北京。
「加油!加油!」(頑張れの中国語)と応援は中国組へのものばかり。完全アウエーの中、第1セットを簡単に取られ、2セット目もリードを許す。あと3点取られればゲームセットというところまで追い込まれていた。しかし、このセット粘って取り、勢いに乗った。
ペアを組んだのは、4年前。ふたりを見たNEC・SKYの今井彰宏監督は「世界を狙うには、このふたりしかいない」と直感。その後は、さながら武者修行のために世界を転戦することに。
昨年の世界選手権で3位に入るなど、脚光を浴びるオグシオの2番手に甘んじていたふたりが頭角を現したのは、6月のインドネシアオープン。五輪、世界選手権に次ぐハイレベルのこの大会で、日本勢初の準優勝。
7月の全日本実業団選手権では、3年ぶりにオグシオにも勝って優勝。バドミントン関係者が「秘密兵器」と期待してきたペアの成長した姿が、そこにあった。
中国ペアに勝った瞬間、コートに突っ伏して喜びを表現した。
観客席から声援した今井監督は「ここにきて、あれだけの相手に勝った。ほんとうに、あいつらはすごい」。
しかし、ふたりはすでに次戦を見つめている。
「ここまできたら、メダルを狙いたい」
末綱のその言葉に、前田がうなずく。世界一を破っているだけに首にかけるのは、もちろん金メダルしかない。