「テーブルトークRPG(TRPG)」をご存知だろうか。1980年代、もしくは90年代初頭に青春時代を過ごした方からは「俺よくGMやってたよ!」なんて声が聞こえてきそうだが、若きゲーマーにとってはあまりなじみのない単語かもしれない。
TRPGはドラクエやFFなどコンピュータRPG(CRPG)の原型のようなもので、人間同士のコミュニケーションで成り立っている。
例えば、民家に侵入してタンスの中を物色しているところを家主に見つかってしまったとしよう。この場合、CRPGならば特に咎められることはないが(洋ゲーなら殺されることも)、TRPGでは「タンスに魔物が侵入してるのを見かけた。退治してやった」などという、民主党も真っ青の、非常に苦しいとっさの言い訳もできてしまうのだ。それが成功するか否かはゲームマスター(GM)と呼ばれる進行役の裁量に委ねられるのだが、中にはそういった行動を一切認めない堅物GMも。もっとも、あまりに自由奔放な行動をとるプレイヤーもGMにとっては厄介なのだが。
<麗しの我が家亭へようそこ>
さて、今回取り上げる『ソード・ワールドPC』は、日本で最も知名度が高いと思われる同名TRPGのコンピュータ版である。TRPG版発売直後にコンピュータ化の企画がスタートしたが、完成までには3年の歳月を費やした。
シナリオを手がけた下村家惠子によれば、当初の計画ではシナリオは100本だったものの、最終的には容量の問題で50数本にまで削ったとのこと。その埋もれたシナリオは後に発売されたシナリオ集に収録されたが、現在ではプレミア化しており入手困難。ちなみに本作のシナリオは単発モノと連続モノ(メインシナリオ)が存在し、パーティ構成やレベルによっては発生しない、もしくは消滅してしまうものもある。この辺は以前取り上げた『ロマンシング サ・ガ』に近い。
なお、ゲームシステムは一部にアレンジが見られるものの大半はTRPG版に準拠しているため、一般的なRPGしかプレイしたことのない人にはかなりとっつきにくいと思う。例えば、武器を装備しようと思っても自らの「筋力」が「必要筋力」に満たなければ装備不可能だったり、シャーマンだから金属製の鎧(銀は除く)は装備できない等々、装備一つとっても様々な制約があったりするのだ。
が、筆者のように10分程度の休み時間までTRPGに興じていた人間にっては、そういった細かな制約も含めて、もうたまらない代物だった。FDの4枚目が壊れて涙目になるくらい繰り返しプレイした。ついでに告白すると、『同級生』のFDが壊れた経験も持つ。愛しの舞ちゃんとさあこれから…という時に、Gディスク(うろ覚え)が読み込まなくて発狂したのも今となっては良い思い出だ。HDDが大変高価だった時代のお話である。
<マイ設定はTRPGの基本>
その他、キャラクターメイキングも楽しい作業だ。『ウィザードリィ』同様、これには毎回かなりの時間を費やすことになるのだが、その際に「種族はエルフだが実は両親とも人間。つまり“取り替え子”であり、そのために永らく苛められ、ついに耐えられなくなって生まれ育った小さな村を一人飛び出した」なんていう“痛い”マイ設定を用意しておくと、さらにゲームに没頭できる。ただ、これを他人に語ると頭のおかしい子として本当に忌み嫌われる可能性があるので注意したい。
ちなみに本作はSFC版も発売されているが、シナリオ数が大幅に減っているのが難点(ただしSFC限定シナリオが8本存在)。なお、PC版は某レトロゲーム配信サイトでダウンロード販売されているので、そちらをチェックしてみよう。
決して万人向けの作品とは言えないが、秀逸な物語を楽しみたい、もしくはファンタジー然としたソードワールドの世界にどっぷり浸りたい人には是非ともオススメしたい一本である。(内田@ゲイム脳)
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DATA
発売日…1992年11月
メーカー…T&ESOFT
ジャンル…RPG
ハード…PC-9801