時代の違いもあるが、生え抜きのキャッチャーで年俸1億円に到達したのは、梅野が初めて。シーズン途中、左足の薬指を骨折しても試合に出て、それを全く感じさせなかった点も高評価につながったのだろう。
「去年と比べ、どこが変わったのかと言えば、ドッシリと構えていられるようになりました。ピンチになると、一番オタオタしていたのが梅野でしたから。今年はそういったオタオタぶりがなくなりました」
阪神戦を担当することの多い在阪球団出身のプロ野球解説者がそう言う。
そのオタオタぶりについて、チーム関係者に聞いてみると、意外な言葉が返ってきた。「西(勇輝=29)のおかげじゃないかな」
18年シーズンオフ、西はFA権を行使し、オリックスから阪神に移籍してきた。西はチームで唯一の2ケタ勝利を挙げ、防御率も2点台と好成績を残した。同関係者によれば、その西が得点圏に走者を出したとき、捕手・梅野を覚醒させたという。
「キャッチャーがマウンドに行く時は、ピンチを迎えた場面です。梅野に限らず、どのキャッチャーもピッチャーに一呼吸を置こうとし、マウンドに行くんですが、西は『平気、大丈夫』と、淡々と梅野に返していたそうです。そのメンタル的な強さに梅野が感服し、自分も見習わなければならないと思ったんです」
梅野は他投手とバッテリーを組み、ピンチを迎えた時、やはりマウンドに行く。今度は自分が他投手に「大丈夫」と声を掛け、動じないように努めていたそうだ。
“西加入の効果”が梅野を成長させたようだが、近年のプロ野球界を見ると、「好捕手が若いピッチャーを育ててきた」という印象が強い。ライバル巨人では、阿部慎之助が若い投手を牽引し、育ててきた。その反対もある。リーグを代表するような経験豊富なベテラン投手が若い捕手を勉強させ、育てていくケースもある。一例として、ソフトバンクに復帰した城島健司氏がそうだった。現役時代、工藤公康監督(当時、ダイエー投手)に鍛えられ、メジャーリーグでマスクをかぶるまでに成長している。
キャッチャーがピッチャーを、ピッチャーがキャッチャーを育てることはよくあるが、それはどちらか一方がベテランの域に達しているときだ。西の29歳という年齢を考えると、28歳の梅野の急成長は特異ケースと言っていい。
「キャッチャーには2通りがあります。オレに付いてこいのタイプと、ピッチャーの投げたい球種を見抜いて気持ちよく投げさせるタイプ。梅野はスコアラーから上がってきた対戦バッターの苦手、傾向、対策に従って忠実に配球を組み立てています」(前出・プロ野球解説者)
19年、梅野は129試合に出場した。キャッチャーは、ほぼ梅野で固定された格好だ。キャッチャーが固定されると、ピッチャーは自身の好不調を判断してくれるという利点が生じる。梅野が2020年もほぼ一人でマスクをかぶることができれば、トラのチーム再建は一気に加速されるだろう。(スポーツライター・飯山満)