徳川家康(北大路欣也)は反逆を名目に会津の上杉討伐の兵を進める。家康の不在を付く形で石田三成(萩原聖人)は挙兵する。大阪城に入った三成は徳川方に味方した大名の妻子を人質として大坂城に集めようとし、ガラシャの住む細川屋敷にも兵を送る。
『江』は江(上野樹里)が主人公であるが、『姫たちの戦国』と「姫」が複数形になっており、江以外の姫にとっての戦国時代も描く。今回はガラシャにとっての戦国であり、「姫の十字架」はガラシャの十字架であった。
多くの歴史作品ではガラシャの夫の細川忠興はガラシャに執心で嫉妬深かったと描かれている。ガラシャの美しさに見とれた植木職人を手打ちにしたとの逸話もある。2006年放送の大河ドラマ『功名が辻』では忠興(猪野学)がガラシャ(長谷川京子)に「人質にされるくらいならば自害しろ」と命じている。
これに対して、これまでの『江』の忠興(内倉憲二)は薄情な人物として描かれていた。本能寺の変後に忠興はガラシャを幽閉するが、これはガラシャよりも世間体を優先させたものであった。離縁ではなく、ほとぼりが冷めるまでの幽閉にとどめたことを忠興の情愛の深さとする解釈もあるが、『江』は採用していない。そして忠興が側室と戯れる姿を見て、ガラシャは忠興に愛想を尽かし、信仰に生きがいを見出す。
ところが、今回の忠興は異なっていた。会津攻めへの出発直前にガラシャに「そなたには寂しい思いをさせて参った。すまぬ」と詫びる。忠興の真心に接したガラシャは忠興の妻として生きることを決意し、それが史実の壮絶な最期につながった。『功名が辻』のガラシャは夫に従う武将の妻の覚悟を描いたが、『江』のガラシャは愛を原理として主体的に意思決定する女性であった。
ガラシャの生き方は徳川秀忠(向井理)に「百姓になって生きる」ことを提案する江とは対照的である。現代的な江に対する古いタイプの女性として対比的に描くことも可能であった。しかし、細川家に殉じるという封建的な行動でありながら、『江』はガラシャを主体的に生きる現代的な女性に描いた。
(林田力)