豊臣秀吉が亡くなり、徳川家康(北大路欣也)と石田三成(萩原聖人)の覇権争いが水面下で勃発する。『江』では家康に対抗できた重要人物である前田利家は名前だけで登場しない。これは歴史の描写としては不十分であるが、それによって家康と三成の対立がクローズアップされた。
家康は大御所俳優の北大路欣也が演じるだけあって、信長の事実上の配下武将であった初登場時から貫録があった。これに対して、三成は秀吉の腰巾着である。史実では豊臣政権を支えた能吏であるが、『江』では秀吉のバカ殿につられて三成もバカ家臣になっていた。家康に対抗する動機も豊臣家のためと言いつつ、豊臣家の第一の家臣の座を家康に渡したくないという嫉妬心が働いている。
今回の三成は髭を生やして貫録を少し出したが、それでも家康と三成の差は明白である。家康の相手としては力不足である。その代わりに今回は秀忠と三成の対決が見どころである。秀忠は三成を屋敷に呼び、「三成が家康の命を狙っている」との噂の真偽を確かめる。恒例の江の立ち聞きも意に介さず、酒でもてなしながら、噂の真偽を単刀直入に切り出して三成を牽制する。
これは父親の家康に従う律義者という既存の秀忠像を覆すものである。これまで『江』も父親に反発する皮肉屋と描き、既存の秀忠像を一新させてきた。但し、息子を人質に出す家康に反発する秀忠の価値観は現代人に近いが、戦国時代の現実を無視している。現代的な価値観で皮肉を言う秀忠は、戦国時代では使えない人間である。これは凡将という既存の秀忠像と意外にも近づいてしまう。
ところが、今回は独断で三成を呼び、三成の不満を思いやりながらも牽制するという政治力を発揮した。凡庸な二代目のイメージが強い秀忠であるが、史実では福嶋正則らの改易や娘・和子の入内など大名や朝廷を統制し、江戸幕府を盤石にした功績がある。その秀忠の実像に今回の秀忠は重なる。
三成と話す時の秀忠を演じる向井理の目つきが鋭く、切れ者の戦国武将の風格が漂った。向井は大学で遺伝子工学を専攻し、デビュー前はバーテンダーをしていたという異色の経歴の持ち主である。理系としての論理性とバーテンダーとしての人情の機微を備えている。その両者が三成とのやり取りで発揮された。これから政治の表舞台に立つ秀忠の切れ者ぶりに注目である。
(林田力)