「キャッチボールの段階から、ボールに指が引っかかっているというか、とにかく、ボールのキレが違う。昨シーズン話題になった『ワンシーム』や『高速チェンジアップ』の攻略法も完成していないので、今季もてこずるだろうね」(在京球団スコアラーの1人)
ワンシームに関しては、「近年来日した外国人投手が投げていた」、「巨人・久保がもっと早くから修得していた」などさまざまな説もあるが、ダルビッシュがテレビ番組内でコメントしたことでクローズアップされるようになった変化球だ。
変化球の定理について平たく説明すると、たとえば、『カーブ』でも、握り方や腕の振り方が同じでも、投げる投手の体格や筋力が違えば、十人十色の軌道を描くという。むろん、大きな差はない。しかし、その“十人十色の定理”では説明しきれない変化球の軌道もある。日本ハムの左腕・宮西尚生(25)が、ライバルチームのスコラアーも首を傾げたくなるような『沈む変化球』を投げ始めた。
昨季、宮西はチーム最多の61試合に登板。左の中継ぎとしてチームに大きく貢献したが、強いて弱点を挙げるとすれば、「真っ直ぐとスライダーのコンビネーション」に頼りきったタイプでもある。本人もそれを自覚しているのだろう。このオフ、新しい球種をマスターしようと取り組んできた。現在、ブルペンで試験的に投げられていた『新球』が、既存の変化球とは違う軌道を描いているという。
「高橋(尚成)が巨人時代に投げていたスクリューボール系の変化球にも似ているし、フォークボールに近い落差の幅を見せるときもある。スプリット系の変化球かな? 宮西本人もいろいろとテストしていたみたいで、実戦で使えるかどうか判断しかねている様子でしたが」(前出・同)
スクリュー系だの、スプリット系だの言われてもイメージがわかない。
要するに、スコアラーが自軍の選手に『宮西の新球』を報告する場合、「スプリット系の…」と言うだけでは、実際に対戦した選手から「報告と違うじゃないか!?」と叱られかねない。言い換えれば、報告(表現)の仕方が難しい軌道の変化球を投げているのだろう。各対戦チームはオープン戦などの実際の映像を集めてから、選手たちに伝えるようだ。
変化球の定理について、こんな指摘も聞かれた。
「最近はメチャクチャですよ。カーブでも、投手本人がスライダーと言えば、スライダーですからね。テレビ、ラジオの実況アナウンサー、解説者は泣かされていますよ。『カーブ』の話をしていたら、試合後の談話で『スライダーだった』なんて言われたり」(メディア関係者の1人)
近年、テレビ中継で「緩い変化球」なる曖昧な表現が多用される用になったのも、『変化球の球種=自己申告制』の影響と言っていい。
某パ・リーグ投手によれば、ダルビッシュは「変化球を投げるのが好きな方」だという。シーズンに入っても握り方を少し変えてみるなど好奇心が旺盛で、オールスター戦のベンチでも他球団投手が「教えてくれ」と頼めば、惜しみなく、修得のコツまでレクチャーしてくれるそうだ。日本ハムのチーム関係者も同様の話をしていた。従って、日本ハム投手陣は変化球への関心が高くなっており、既存の変化球にもアレンジが加えられているのかもしれない。おそらく、宮西の修得した新変化球もその一環だろう。
斎藤佑樹が「ダルビッシュから学びたい」と言ったのも分かるような気がする…。
「武田勝、糸数、林も去年までとは違う軌道の変化球を投げていました」(前出・スコアラー)
ダルビッシュの存在感の大きさが再認識させられる話である。