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盲亀の浮木

 心理学者カール・ユングによって提唱されたシンクロニシティ。この概念について語る時、最も挙げられる事象の一つにプラム・プディングの話がある。

 プラム・プディングとは、イギリスの伝統的なクリスマスケーキである。日本ではパウンドケーキと言った方が、イメージしやすいだろう。
 1805年。まだ少年だったフランスの詩人エミール・デシャンは、隣人ドゥフォルジュボー氏からプラム・プディングをご馳走になった。フランスではまだ知られていなかったプラム・プディングにイギリスで出合い、大変気に入ったドゥフォルジュボー氏は、帰国すると誰彼となく強く勧めていた。

 10年後、デシャンはパリのレストランで、メニューに懐かしいプラム・プディングを見つけた。迷わずオーダーしたが、最後の一つが出された後だった。がっかりしたデシャンが、運ばれていく最後のプラム・プディングを目で追っていると、そこにはドゥフォルジュボー氏がいた。期せずして再会した二人は、プラム・プディングを分け合い味わった。

 そして1832年、デシャンは招待された晩餐会で、メニューからプラム・プディングをオーダーした。ここにドゥフォルジュボー氏が現れたらそれこそ奇跡だな。と思いながら、友人達にパリのレストで起こった不思議な偶然を話していたまさにその時、年老いたドゥフォルジュボー氏が部屋に入ってきた。この時、ドゥフォルジュボー氏はたまたま別の用事で来て迷い、部屋を間違えただけであった。

 デシャンが、生涯においてプラム・プディングを食べたのはわずか3度である。そして必ず意図せず、ドゥフォルジュボー氏が現れたのは奇遇である。

(七海かりん 山口敏太郎事務所)

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