玉木さんはもともと主婦だった。ところが、姑との折り合いが悪く、それを見て見ぬふりをする夫にも愛想をつかして出奔。夫の知人と東京都新宿区大久保の安アパートで同棲を始めた。が、そこにも長くはいられなかった。男には激しいDVがあったのだ。玉木さんは着の身着のまま飛び出し、インターネットカフェへ。流転を繰り返す途中、覚えたのがクスリだった。
クスリを教えてくれたのはイラン人だった。起立性の自律神経失調症にかかっていた玉木さんは新宿の路上で転倒。そのとき助けてくれたのがイラン人だった。
イラン人はやさしく介抱してくれたばかりか、インターネットカフェで暮らしていると知ると、うちへ来るよう言ってくれた。たちまち同棲が始まった。だが、男はクスリの密売を手がけていたのだ。
「このクスリ、めまいによく効くよ」
言われるままに覚せい剤を使用するようになった玉木さんはシャブを手放せなくなった。
覚せい剤を使用すると、体に巣くっている病魔が消えてなくなる気がした。くさくさした気持ちはどこかへ吹き飛んでしまうようだった。自分には何でも出来る気がした。もちろん、セックスの快感も2倍、3倍になった。
だが、いいときばかりではない。クスリが切れると鬱(うつ)が襲った。そのため、毎日のようにサウナに入って気分を爽快にし、再び、クスリを使うという悪循環。毎日がクスリを中心に回っていた。
仕事はイラン人の密売を手伝った。だが、ある日、アパートにヤクザ者が押しかけてきて状況は一変した。イラン人とヤクザとの薬物密売をめぐるトラブルのようだった。イラン人はその日を限りに姿を消した。アパートの家賃は3カ月も滞納されていた。家賃の取立てを食らって、彼女自身も逃げ出した。再び、ホームレス生活に入った彼女はクスリを買う金にも事欠き、ますます疲弊していった。
そんなとき覚えたのが置き引きだった。駅の待合室で乗客がほんのわずかの間、手荷物から離れたスキを狙って犯行を繰り返した。ブツは盗んだ金を手に渋谷のセンター街にたむろするイラン人と交渉し、購入した。だが、そんなことがいつまでも続くわけがない。
インターネットカフェではゆっくり眠ることもできなかった。彼女はたまたま見つけた留守宅に上がり込むと、ベッドで横になった。つい、眠りこけてしまった。帰宅した家人は彼女を見てびっくり。すぐに通報して御用になったのだ。執行猶予付き判決を受けたものの、玉木さんのこれからはまだ、決まっていない。