小久保の引退試合となった10月8日のソフトバンク対オリックス戦(福岡ヤフードーム)で、プロ通算わずか17勝の西がノーヒットノーランを達成した。
ノーヒットノーランは今季では、4月6日の前田健太投手(広島=DeNA戦)、5月30日の杉内俊哉投手(巨人=楽天戦)に続き3人目。パ・リーグでは00年6月20日のナルシソ・エルビラ投手(近鉄=西武戦)以来、実に12年4カ月ぶり。両リーグ合わせて、史上76人目(87度目)の快挙となった。
すでに両チームは順位も確定しており、完全な消化試合。まさに、小久保のための試合だった。消化試合ながら、小久保の雄姿見たさに、球場には3万8561人もの大観衆が詰めかけた。
ところが、西は1回から快投を続け、5回一死後から松中信彦外野手(38)に四球を出しただけで、ソフトバンク打線を無安打に抑えた。4番一塁で出場した小久保は3打数無安打に倒れ、自らの引退試合に“華”を添えることはできなかった。
近年、野球界では打者の引退試合では、打ちやすい直球を投げることが暗黙の了解となっている。そこをガチンコ勝負して、西はノーヒットノーランを成し遂げた。
実は伏線があった。前日、報道陣の取材に答えた小久保は「真剣勝負がしたいね。最後だから全部真っすぐとかはやめてほしい。ちゃんと勝負して、打てなかったら仕方がない。そりゃ真っすぐに自信があって、投げてくるならいいけどね」とガチンコ対決を望んでいた。
その記事を見たという西は真っ向勝負で、小久保と対戦。「7回、小久保さんに回ってきて、本当にどうしようかと思った。新聞に『ガチで来い』と書いてあったので、思い切って真っすぐを投げた」と話した西。また、「(小久保の)引退試合なので、どう喜んでいいのか。ガッツポーズができなかった」と、気遣いも見せた。
スポーツジャーナリストのA氏は「去年、初めて規定投球回に達して、初の2ケタ(10勝7敗)を挙げた西への首脳陣の期待は大きかったのです。ところが、今季その期待に応えられなかった西はここまで7勝。小久保の引退試合とはいえ、来季に向けアピールする必要がありました。本来なら、小久保に華をもたせるべきだったかもしれませんが、西の立場としては全力で行くしかなかった。ましてや、ノーヒットノーランが懸かっていたわけですから、小久保の最終打席で力は抜けないでしょう」と語る。
大スターの引退試合で快挙を達成したことで、当日のスポーツニュースや、翌日の新聞では、皮肉なことに、小久保より西が大きく扱われ、小久保の引退試合は完全にかき消された格好だ。
消化試合とはいえ、大記録を成し遂げた西は大いに評価されてしかるべき。しかし、偉大な選手の引退試合を結果的に潰したことで、“世紀のKY男”として、終生語り継がれることは間違いなさそうだ。
(落合一郎)