「古書 五っ葉文庫」の店長、古沢和宏氏は、愛知県犬山市で開催されたイベント、「ブックマークイヌヤマ」のブレーンの1人として、全国のサブカルチャー界や出版業界から注目を浴びている。
痕跡本のディープな魅力を聞いてみた…古沢和宏氏へのインタビュー(第3回/全3回)
Q:次回にやってみたいことは?
A:痕跡本は、読み取る人それぞれの想像力や考え方によって何種類もの顔をみせてくれます。今までも展示を見にきて下さった方との話の中で、新しい発見がたくさんありました。そんな謎解きこそが楽しさの一つであるならば、痕跡本はまさに様々なつっこみがあってこそ光るものであり、色んな考え方にもまれる事こそが新たな可能性の鍵であると思います。
ですので、それぞれの方が自慢の痕跡本を紹介しあいながら、傷の面白さや書き込みの妙について「このメモ書きは一体何があったのか…」「いや、それよりもこっちの書き込みが…」なんて討論したり唸ったりしながら、それぞれの価値観をぶつけて値段をつけていく、「痕跡本オークション」なんて事ができないかな、なんて思っています。でもこれを行うにはもっと認知度が上がらないと難しいので、実現はまだまだ先の事になりそうです(笑)
また、痕跡本の生まれる背景にも目を向けられたら、と思っておりまして、以前には、ずっと大事にしていた本の思い出を発表してもらいながら、そこに残されている本と接した記録、すなわちよごれや傷み、そして書き込みなどに注目する形で痕跡本の生まれる状況に目をむけるイベントなども開催したのですが、その一環で考えているイベントが実はありまして、それが今年の9月18〜21日に長野県高遠町で開催される「高遠ブックフェスティバル」で開催するイベント「俺の教科書」です。( 高遠ブックフェスティバル http://takatobookfestival.org/)
誰でもやったであろう授業中の落書き。そこには限られた状況だからこそ爆発する「あの頃の全て」がありました。今敢えてその落書きを見返す事で、あの頃と、その先の「今」を見つめようというイベントです。
参加型トークイベントという形で開催するのですが、参加される方にはその当時の教科書、なければ思い出だけでも大丈夫ですので発表してもらい、それを皆で突きつつ、懐かしみつつ、読み解いていく形になります。
痕跡本、それは即ち本を身近に過ごした結果であり、物としての本だからこそ残る、人と本との繋がりだと思います。だからこそ、そこの裏側、生まれる過程や痕跡本をつくりだす人の気持ちまで考えながら、より人と本との距離の近い接し方を見つめていけたら、と思っています。
Q.痕跡本を追求することでどのように人生が変わったのか?
A:全てのモノに縁とバックボーンを考えるようになりました。もともと自分は運命論者で、人生でおこる様々な出来事はすべて何らかのかたちで繋がっており、だからこそ降ってきた話は運命の導きという事にして全てに乗っかっていく、という、ある意味素直に、ある意味何も考えず、自分は今まで生きて来たのですが、その傾向がより一層強くなりました。それこそ、この痕跡本は自分に読まれる為に見つかったのではないか、なんて事すら思う始末。ここまでくればほとんど病気です。
でも痕跡本に限らず、例えば道に落ちているゴミや壁にのこった傷跡に至るまで、それら全てには理由があり、そこに目を向ければ、世界は見えない物語の連鎖で出来上がっている事に気付かされます。目を向け始めるとキリがない為、いつもそんな風に世の中を見ている訳にはいきませんが、それでも随分世界の見え方は変わりました。
訳もなく物は存在しない。そして、そこにいたるまでの時間とつながりに目を向ければ、その物は世界に一つしか存在しない。そう言う風に世界を見つめると、目に見えないだけで世の中は痕跡だらけで、しかもその奥行きがたまらなく深い事に気付かされるんですよね。そんな繋がりを一番わかりやすいかたちで感じられるもの、それが痕跡本だと思うのです。
余談ではありますが、痕跡と繋がりを想像すると言えば、実はずっとやってみたいと思っている展覧会がありまして、例えばギャラリーに行くと、その壁には展示の際に残された、ピン穴や壁の破損などが残っているじゃないですか。そんな壁の痕跡に目を当てて、そこで展開された表現の記録を読み解く展覧会、なんてのをやったら面白いんじゃないかな、なんて夢想しております。(つまりギャラリーに展示はしないで壁はそのままという事です。)タイトルはズバリ「兵どもが夢の跡展」でしょうか(笑)
※古沢和宏
古書 五っ葉文庫
店舗:愛知県犬山市犬山薬師町11-4 キワマリ荘
ブログ : http://ameblo.jp/itutubabunko
※イベント予定:8月31日に名古屋新栄のカフェパルルにて
痕跡本のトークイベントを開催。
http://www.parlwr.net/2010/08/post-6a84.html
※文科系忍者記者ドラゴン・ジョー(山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou