11月26日に関西電力が経済産業省に申請、翌27日には九州電力、29日には四国電力、30日には東北電力と、わずか1週間で4社が名乗り出た。既に東京電力が9月から家庭向け料金の値上げを実施しており、まさに「皆で値上げすれば怖くない」の図だ。
各社“揃い踏み”の理由は明白である。原子力発電所の再稼動には全くメドが立たない一方、火力発電用の燃料費負担がズッシリ重い。空前の大赤字で経営の屋台骨が揺らいでいる以上、ユーザーに「相応の負担」をお願いせざるを得ないとの立場だ。
当然、ユーザーは猛反発する。一般家庭向けで平均約10%の値上げは直ちに家計を直撃するが、国の認可を必要としない企業など大口向けのそれは、関電で19.23%、九電で14.22%と、家庭向けよりも割高。ただでさえ円高と消費不況に悲鳴を上げる企業には、負担増の追い打ちに他ならず、そうなれば国内生産に見切りをつけ、東南アジアなどに工場を移転する動きが加速する。当然、空洞化が進んで日本経済の沈滞に拍車がかかる。
「知恵者揃いの電力会社がそれを承知で値上げ攻勢に打って出たのは“脱原発”の機運が高まってきたことへのアンチテーゼといえば話が早い。原発の再稼動さえ認めてくれれば、大幅な値上げを申請する必要がなく、従って国内の産業空洞化など杞憂に終わると訴えたいのです」(電力関係者)
折も折、総選挙を目前にして滋賀県の嘉田由紀子知事が“卒原発”を旗印にした新党『日本未来の党』を結党し、これに複数の政党が合流して台風の目に浮上したばかり。電力会社にとって歓迎できない最たるものは、にわかに高まる“原発ゼロ”の声なのだ。
実際、値上げ申請に当たって関電は、大飯原発3、4号機(福井県)と高浜原発3、4号機(同)を来年7月から再稼動させることを前提にしており、もしもそうならない場合は「申請の倍の値上げが必要になる」と正直な“脅し”をかけている。
要するに国策として原発から完全に撤退すれば、日本経済は壊滅的ダメージを被ると訴えているのだ。
しかし繰り返せば、原発問題が総選挙の争点の一つに浮上しているとはいえ、なぜ今、値上げ申請ラッシュなのだろうか−−。
先に出揃った9月中間決算に輪をかけて、来年3月期が厳しいと覚悟したであろうことは疑う余地がない。そこで、政府の認可が必要な家庭向けの値上げを来年4月から実施するためには「経済産業省の専門家委員会や公聴会、内閣府の消費者委員会などの審査を考慮すると、年末ギリギリがタイムリミット」(政府筋)のようだ。