現在の本拠地は札幌ドームだが、1988年から2003年までは巨人と共に東京ドームを本拠地としていた日本ハム。この日は19年前の9月12日に同球場で一軍デビューを果たし、今シーズン限りで現役を引退する田中賢介の東京ラストゲームだった。
試合前のセレモニーに臨み、そのまま「6番・指名打者」でスタメン出場した田中。同選手が打席に入るごとに、日本ハムファンはもちろん、楽天ファンも共にそれぞれのスタンドから大声援。7回裏に日本ハムの応援歌が流れる最中には、「おつかれさま田中賢介 いくつもの輝く瞬間忘れない」という文字が入ったお手製のプラカードを楽天側スタンドで掲げる楽天ファンも中継画面上に映し出された。
また、日本ハムファンの1人が「この光景を忘れない」という旨の文章と共にSNSに投降した画像では、試合終了後もスタンドに残り、田中の名前が入ったピンク色のタオルを広げ続ける楽天ファンが複数人いたことも確認できた。
もうすぐユニフォームを脱ぐ田中に敬意を表した楽天ファン。これを受けてネット上には、「他チームなのに賢介さんを応援してくれてありがとう」、「リスペクトに溢れてて感動した」、「こういう人たちがもっと増えればいいのになあ」といった声が数多く寄せられている。
ここ最近の球界では、一部ファンが選手に敬意を欠いた行動を働く事例が頻発している。例えば、今月6日のソフトバンク対ロッテ(ヤフオクドーム)では、この試合で2つのエラーを犯したロッテ・マーティンに対し、ソフトバンクの私設応援団が「いいぞ、いいぞ、マーティン」などとコール。
また、先月29日の巨人対広島(東京ドーム)では、試合前に観客が広島・長野久義に対し「どうせ打てないでしょ、2割だから」、「みんな拡散しろ拡散しろ、長野が2割だってよ」といったヤジを浴びせてもいる。こうしたファンの節度のない言動が相次いでいることもまた、今回の一件が多くの感動を呼んでいる理由かもしれない。
試合後のヒーローインタビューで、目を潤ませながら「最後の打席の声援は、二度と忘れることのないような声援だった」と語った田中。両軍ファンが一体となった“リスペクト”は、田中の元に確実に届いたようだ。
文 / 柴田雅人