日本に棲息していたカワウソは「ニホンカワウソ(日本川獺)」と呼ばれ、体長64.5〜82.0cm、尾長35〜56cm、体重5〜11kgの大きさの動物である。その特徴は、眼を水面から出して警戒できるよう、眼と鼻孔が顔の上方にあり、鼻孔は水中で閉じることができる頭骨形状になっている。北海道から九州まで広範囲に棲息しており、泳ぎが得意で、水中での生活に適応しているが、陸上でも自由に行動できる。魚、エビ、カニを好んで食べるため、河川と海との間を往復もしている。また、カワウソの体毛は、水中での体温消耗を防ぐため、外側は粗い差毛、内側は細かい綿毛で、差毛は水中で水に濡れて綿毛を覆い、綿毛に水が浸入するのを防ぐよう二層になっている。そのため、良質な毛皮として需要が高かった。
カワウソの毛皮目的による乱獲や土地開発による環境の激変で棲息数は次第に減少していった。1928年(昭和3)に捕獲が禁じられ、1965年(昭和40)には特別天然記念物にも指定されたが、1974年に7月に高知県須崎市で捕獲されたのを最後に絶滅したとされている。
ニホンカワウソは、とても利口な動物なので、年を取ると化ける事が出来ると言われていた。日本の昔話や伝説では、カワウソはキツネやタヌキと同様に美しい女や男に化け、人を騙す動物として登場し、カワウソに化かされたという話も各地に多く残されている。愛媛県宇和島市には、夜道を一人で歩いている時、30cmほどの人影が見える。よくよく見ると、背がずんずんと伸びて空に上って行くように大きくなり、人を驚かす「のびあがり」という妖怪がいる。土地の人々は、のびあがりの正体をカワウソだと言っている。また、滋賀県東近江市瓜生津町では、朝まだ薄暗い時、湯川の辺りを通ったら、笠を被った小さな子供が歩いていた。不思議に思い振り返るともう姿は無かった。これは、カワウソが化けていたのだろうと言われた。
北陸地方では、カワウソが子供に化けて酒を買いに来たことがあった。店の者が「誰だ?」と言うと、「オラヤ」と言えず、「アワヤ」と答えた。さらに「何処から来た?」と問うと、「カワイ」と意味不明な答えをして、正体がばれてしまった。また、石川県金沢市では、城をめぐる堀に年を経たカワウソが棲んでおり、度々人に化けて人を騙していた。きれいな着物を着て笠をかぶった女に化けたところ、言い寄って来た若い男を付け回し、食い殺したというような恐ろしい話も伝わっている。
(画像:鳥山石燕『画図百鬼夜行』より「獺」(かわうそ))
(皆月 斜 山口敏太郎事務所)