2003年、滋賀県東近江市で開催された「怪画展」に展示された妖怪画に、奇妙な傾向がみられた。「怪画展」とは、東近江市の中心地八日市で毎年開催される「八日市は妖怪地」という記念祭での妖怪イベントの1つである。プロ・アマ問わず、いろいろな人々が自由な発想で描いた妖怪・モノノケ・神様などの妖怪画を募集し、「ショッピングプラザアピア」にある情報プラザやセントラルコートで、幼児、小学生低学年、小学生高学年、中学生、大人の5つの部門に分け展示する展覧会のことである。
その年の怪画展では、幼児の部に応募された作品の殆どが、ろくろ首の絵であった。それに対して、他部門では、ろくろ首をメインで描いた作品は無く、描かれてあったとしても、妖怪軍団の中の1つとして描かれているだけであった。
何故、幼児の間では、妖怪の中で、ろくろ首の人気が高かったのか? 幼児の妖怪に対する認知度を考えてみると、妖怪アニメの定番「ゲゲゲの鬼太郎」第5シリーズの放送が、2007年4月1日からなので、当時の幼児は鬼太郎に登場する妖怪を観て育った世代ではない。また、東近江市大森町には、ろくろ首の伝説が残っていた。「悪いことをするとろくろ(ろくろ首)が巻きつくぞ」と、子供をたしなめていたというが、今時、そう言って子を叱る親もいないし、子供達も信じないであろう。
東京理科大学準教授・武村政春氏によれば、ろくろ首という妖怪の容姿は、不通の人間と変わらない。唯一の違いは首が長く伸びるだけである。幼児が妖怪を描く時、人間の姿を描いて、長さを問わず、首だけ長く描けば、ろくろ首になる。その描きやすさこそ、幼児がろくろ首を選んだ理由のひとつである。また、ろくろ首の顔や衣装に決められた規定がない。首だけ長くすれば、自分の好きなイメージで顔や衣装を描けることも、幼児にとって魅力的な妖怪となった。それに対して、幼児以上の年齢になると、妖怪を描くにあたって、ろくろ首では、不通の人間とあまり変わらないので、何か物足りなさを感じるので、描かれなくなったのである。
(写真:「怪画展」ショッピングプラザアピア情報プラザ)
(皆月 斜 山口敏太郎事務所)