昨季、開幕から今一つ波に乗りきれなかった安藤は、シーズン中盤から中継ぎに配置換えされた。「二軍で再調整させるべき」の声も聞かれたが、そんな悠長なことも言っていられないほど、苦しい展開の連続だったのだ。5月2日の巨人戦で能見篤史(31)は4カ月以上も戦線を離脱する重傷を負った。久保康友(30)以外はピリッとせず、メッセンジャーを先発にコンバート。開幕後に獲得したスタンリッジが通用しなかったら、阪神は優勝戦線から脱落していたかもしれない。この先発人材難は新人の榎田、2年目の藤原正典(23)、二神一人(23)、終盤戦で救世主となった秋山拓巳(19)の成長に期待したいが、現時点で真弓明信監督(57)を喜ばせるような報告は届いていない。不安定な先発投手による「ある程度の失点」は覚悟し、野手陣が失点以上の得点を挙げ、藤川球児に繋いでいく…。今季もそんな展開になるだろう。
また、昨季はセットアッパーに泣かされた試合も少なくなかった。試合終盤の8回の失点が「81」。かなり多い数値だ。しかし、久保田智之(29)が復調し、小林宏之(32=前千葉ロッテ)の加入もあった。守護神・藤川球児(30)も健在だ。05年のリリーフ専念後、防御率を初めて2点台に落としたとはいえ、58試合に登板し、失点「14」の数値は称賛に値する。『第2の秋山』が出現するとすれば、ドラフト4位の岩本輝(18=南陽工)ではないだろうか。岩本は2年秋以降に頭角を現し、3年夏まで日を追うごとに成長して行った。西日本の高校野球関係者は皆、「まだまだ伸びる」と太鼓判を押していた。
昨季のチーム打率2割9分は球団史上最高の数値だという。マートン(29)、城島健司(34)の加入はやはり大きかった。とはいえ、214本の安打を量産したマートンが2年連続で活躍できるとは思えない。対戦投手の攻め方も相当厳しくなるだろう。昨季、鳥谷敬(29)、平野恵一(31)、ブラゼル(30)も過去最高の成績を残している。最強打線は長打率、出塁率、打点、総安打数もリーグトップで、チーム総得点「740」は12球団最多。しかし、犠打犠飛「147」、奪った四死球「446」はリーグ5位。金本知憲(42)の復調に一抹の不安が残り、左ヒザの手術で城島も出遅れるとなると、バント、エンドラン、単独スチールなどで「得点効率を高める作戦」も必要となってくる。真弓監督の手腕によるところも大きいが、チャンスメークもできる平野、鳥谷が順調に仕上がれば、チーム打率は落ちても、得点チャンスの数は減らないだろう。
セ・リーグは中日以外、「投手陣の再整備」の課題を抱えている。そう考えると、突出した打線の破壊力を持つ阪神は、やはり優勝候補と見ていい。社会人で高い制球力を誇った新人・榎田が前評判通りのピッチングをしてくれれば、苦しいながらも首位戦線で戦って行ける。(スポーツライター・飯山満)