「甲子園に出場する高校の球児でも『基本』を忘れてしまうんですかね? 甲子園大会とは、それだけ大変な試合なんでしょうけど…」
県予選で敗れた関東圏のベテラン監督が首を傾げる。
『基本』を忘れたプレー−−。同監督は甲子園出場経験もあるが、この夏は自身の勉強を兼ね、スタンド観戦していた。同監督は言葉を選びながらそう指摘していたが、今大会の“怠慢プレー”を懸念する関係者は少なくなかった。
21日の決勝戦を終え、興味深いデータが弾き出された。
全48試合中、4点差以上の開きが出た試合は25試合。昨年は17試合で、一昨年は21試合。一般論として、大量得点差の試合は、エラーによって生じることが多い。今夏の決勝戦も12点差のワンサイドになってしまったが、興南、東海大相模の両校は鍛え上げられた精鋭集団である。今夏、48試合中25試合もワンサイド・ゲームになってしまった理由は、何処にあるのだろうか。
選手OBのプロ野球スカウトの1人は、こう分析していた。
「内外野の中継プレーのせいだと思う。得点圏に走者を背負った場面でヒットを打たれると、間に合わない本塁に送球し、打者走者を簡単に二塁に行かせてしまうケースが多く見られました。『記録に残らないエラー』ってやつですよ」
前出の関東圏のベテラン監督も、やはり『中継プレー』を挙げていたが、こうも指摘していた。
「外野手の意義を見直す時期に来たのではないでしょうか。外野ってポジションは『打撃の良い球児』をスタメンで使うためにあるような解釈も、現場にはあります。とくに、プロ野球がそうですよね。打線強化で獲得した外国人選手を使うため、守備難でも打撃力のある選手をコンバートするために…。足の速い外野手は今夏もたくさんいました。しかし、これからは、状況に応じて自分で守備位置を代えたり、中継プレーを牽引していくような外野手を育てて行かないと…」
憚りながらではあるが、筆者はワンサイドのゲームが多くなったのは『日程変更』による影響もあったと思う。
今夏、ベスト4が出揃う準々決勝が2日間に分けられた。18日(大会12日目)に行われたのは『成田対関東一』、『聖光学院対興南』の2試合で、翌19日(同13日目)は『東海大相模対九州学院』、『報徳学園対新潟明訓』の2試合。つまり、決勝戦に勝ち進んだ興南、東海大相模の2校を比較した場合、島袋投手は18日、20日、21日の登板となり、東海大相模・一二三慎太投手は19日、20日、21日の3日間連続登板を強いられた。両投手の疲労度を考えた場合、『1登板・1休・2連投』と『1休・3連投』とでは、後者の一二三投手の方が不利と言わざるを得ないのだ。
「行くか?」
「行きます!」
準決勝後、東海大相模・門馬敬治監督と一二三投手の間で、そんな会話が交わされていた。指揮官も3連投となる影響を察していたのだろう。準々決勝を2日間に分ける現在のやり方は5年ほど前に始まった。高野連職員も準々決勝を分けた代償について考え始めてはいるが、まだ正式に議案提議されていない。
猛暑の炎天下と準々決勝を2日間に分けた変則日程が、守っていた野手陣の集中力を奪い、決勝戦は12点差のワンサイドになってしまったのではないだろうか。
新聞紙上でも指摘されていたが、今夏の島袋投手は『技巧派投球』だった。炎天下でのスタミナを考えれば当然のことで、対する一二三投手も『打たせて取る変化球』を多投していた。しかし、サイドスローに転向して1年も経っていないキャリアの差だろうか。興南が7点を挙げた4回以降、スライダーがほとんど曲がらなくなっていた。
島袋、一二三両投手はもちろん、決勝戦を戦った両校に心からエールを贈りたい。野球レベルの低下も懸念されたが、それを解消する方法は『精神論』や『忍耐』ではないようだ。(了/スポーツライター・飯山満)
【訂正】「ベスト4が出揃う準決勝」とありましたが「準々決勝」の間違えです、訂正してお詫びいたします。