前回の第13話「通報者」は、神戸尊(及川光博)の熱血が魅力だが、今回は博識な右京の独断場であった。右京のウンチクと観察眼が事件解決の鍵になるという、伝統的な『相棒』のパターンである。
右京の観察眼は犯人にとっては恐ろしい。何気ない会話や道具から、犯人自身も思いつかない綻びを見つける。六代目山口組は警察官と接触しないなど徹底的な警察対策で有名だが、右京のような刑事が存在するならば、それが合理的である。今回の事件も真犯人が右京の要望に応じなければ、捜査は難航した可能性もある。一方で右京の要望に応じた理由も最後に明かされており、それによって真犯人が本質的には悪人ではないという同情を強める。
今回のウンチクの対象はオーダーメイドのスーツである。オーダーメイドはビスポークともいわれる。テーラーが顧客と話をしながら(be spoke)服を仕立てるためである。『相棒』はソムリエなど職人の世界の描写で評価が高いが、今回もテーラーの世界の奥深さを描いた。そのテーラーの世界に興奮する右京の姿にも注目である。
テーラーの世界のウンチクを披露してウキウキする右京に比べると、事件そのものは霞んでしまう。意地悪な見方をすれば、テーラーと右京を絡ませたいために作られた話のように見える。事件そのもののインパクトが弱い一因は、大手不動産会社社長の安藤(森次晃嗣)の秘密が肩透かしであった点にある。
森次はウルトラセブンの仮の姿であるモロボシ・ダン役で有名である。その森次が演じる人物の秘密というからには、「正体はウルトラセブン」クラスのものを期待してしまう。確かに脅迫に使われたネタは恥ずかしいことであるが、誰かに迷惑をかけるものではない。しかも同じようなことをしている男性は結構存在する。脅迫に屈するくらいならば開き直ってもおかしくないレベルである。そこが表向きは偉そうでも、体面を気にする小心さのある不動産会社社長らしいともいえる。
これは変人ぶりを貫く右京とは対照的である。右京はオーダーメイドのスーツに興奮して、神戸に呆れられるが、意に介さない。同じようなマイペースなコダワリは右京の周囲の人物にも見られる。今回は「暇か」でお馴染みの角田六郎課長(山西惇)が、特命係に新調したスーツを自慢しに来る。
安くて良い買い物をしたことが角田課長の自慢だが、右京が作ってもらっているオーダーメイドのスーツは金額の桁が違うと水を差される。それでも角田課長は「俺のは、替えズボンが付いてるのだからな」と、あくまで自分の価値観で反論する。相棒のキャラの濃さを実感した放送であった。
(林田力)