■柔道チャンピオンからプロ格闘家へ
2008年の北京五輪、柔道100㎏超級の金メダリストに上り詰めた後、同年に総合格闘家に転向した。現役の五輪金メダリストのプロ転向は業界関係者のみならず、スポーツファンにとっても衝撃的な出来事だった。
世界最大の格闘技団体「UFC」と契約するもデビューには至らず、日本で吉田秀彦を相手にデビュー戦に臨み、格闘家としての道を歩み始める。以降、数年にわたり日本で戦ったが白星に恵まれず、柔道時代のような輝きとインパクトを残せずにキャリアを重ねる。そして近年ではミルコ・クロコップに師事し、ヨーロッパを主戦場に現役を続けてきた。
総合格闘技において日本人のヘビー級ファイターは「絶滅危惧種」と言っても過言ではないだろう。現在行われている国内イベントでも組まれる試合は中・軽量級が多く、100㎏を超える重量級の試合には外国人が並ぶ。その中で現在32歳と、格闘技界では脂の乗っている年齢と言える石井への期待は小さくない。柔道界の最重量級で勝利が義務付けられた戦いを続けてきた石井にとって、大型の外国人へのコンプレックスは少ないはずだ。
■東欧での活躍と日本格闘技再興の期待
柔道家時代から変わらないその独特な言動や、誤解を招きかねない奇妙な振る舞いも石井のキャラクターとして既に受け入れられており、今回のKSWへの参戦にも「日本代表」として声援を送るファンも多いだろう。
デビュー戦の相手となるロドリゲスは身長190㎝を誇る同団体の元チャンピオン。侮れない相手ではあるが現在の石井の力量を図るにはちょうどいいサイズの「怪物」だ。得意の寝技、そしてミルコの下で鍛え上げた打撃を武器にした新たな戦場での活躍に期待が膨らむ。
かつて華々しい輝きを放った日本格闘技界。あの熱気を受けてプロの世界に足を踏み入れた石井は愚直なまでに己の道を突き進んでいる。そして今後も彼が戦い続けることで、再び日本の格闘技に光を灯すきっかけとなるならば、それこそが彼が手にするもう一つの勲章と言えるのではないだろうか。(佐藤文孝)