簡単な木幡の略歴だが、1976年神奈川県生まれ、ボクサーとして活躍後の2003年に俳優デビューを果たす。主な主演作は、NHKドラマ『純情きらり』(06)、TBSドラマ『セーラー服と機関銃』(06)、映画『ゴジラ FINAL WARS』(04)、『DETH NOTE デスノート』(06)、『GOEMON』(09)などがある。
『イップ・マン』(08)のドニー・イェン、『トランスポーター』『ゴージャス』のスー・チー、そして『インファナル・アフェア』のアンソニー・ウォンなど、今回の『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』ではアジアの名だたる俳優の中で相交わって独特の威圧感をスクリーンで示した木幡だが、実物の彼はとても快活で謙虚な印象を受けた。
顔を上げ、こちらに目をまっすぐに向けてインタビューへと真摯に回答する姿勢は、厳格な規律の中で鍛えられた格闘家の持つスポーツマン精神に通じているように感じられた。
その木幡に今回の映画のことや、中国での活動について聞いた。
リアルライブ(以下RE)「お忙しいところ、(実は木幡はこのインタビューを受けた次の日には、中国での新作映画の撮影が開始されるために離日しなければならない)一日何社ものインタビューを受けられ、また小社も同じようなことをお聞きしなければなりませんが、ご勘弁ください」
木幡竜(以下KO)「大丈夫です。宜しくお願いします」
RE「一番の見どころと言っても過言ではない、ドニー・イェンとのラストシーンでの対決についてお聞きしたいのですが、このために特別に役作りされたなど、何かご苦労されたことはありましたか?」
KO「普通の格闘技と映画のアクションとは全く違いますので、撮影中でもアクションのためのトレーニングをずっと受けていました。それが本当に過酷で(笑)、僕だけでも6人のアクショントレーナーが付きました。その6人がそれぞれ30分ずつ僕を見てくれるんですが、連続していますので、僕は一回当たり3時間ぶっ続けでトレーニングすることになるんです。そうすると、自分でも判るほどに見る見るうちに痩せていくんです」
RE「食べていてもですか?」
KO「はい、監督からは一日5食食べるように言われていました。しかも、筋肉を付けるための食事とかではなく、体力をつけるために、ただ『単に食べろ』でした(笑)。あと苦労したことは、空手の動き…特にキックです。今までにキックなんてしたことがなかったので」
RE「やってこられたボクシングはこのために役にたちましたか?」
KO「ボクシングがアクションの動きに対して役に立ったということはありませんでしたが、ドニー(イェン)が求めていた本当に人を殴るという気持ちを表現出来たことは良かったと思います。またドニーのアクションに対する考えは、ただ画面の中でキレイにキマるだけのものとは対極なんです。ドニーはアクションも演技の中の一つとして捉えていますので、格闘をしながら感情表現も必要とされました。ですから、ボクシングをしていたことは感情面を生かす事では大変役に立ったと思います」
RE「撮影中にケガなどはされましたか?」
KO「大きなケガなどは全くありませんでした。ただし、打撲やナマ傷などはたえませんでした。あと疲労が溜まりますと、腰が痛くなったりしました。ドニーも同じく腰が悪いので、同じマッサージ師にお世話になっていました(笑)」
RE「それでは、そもそも俳優になられたきっかけは何ですか?」
KO「今考えると、中学生のころに映画を観るのが好きで。その時は漠然と『俳優ってカッコいいな』と思っていました。でも、自分なんて顔もそんなに良くないし、まさかなれるわけがないとも思っていました。また当時はケンカが強くて、地元でも有名でした。そんなことで、高校と大学ではボクシングを選びました。プロとしてもやっていましたが、そのボクシングには付きものの減量で、じっとしている時は常に映画を観ていたんです。今も溝口健二、成瀬巳喜男など日本の昔の映画が大好きなんですが、そうするうちに段々とエンターテイメント業界でやっていきたいと気持ちが大きくなり、今に至ったというわけです」
RE「そうすると、洋画より邦画がお好きなんですか?」
KO「映画は全般的に好きですが、でもどちらかと聞かれたならば日本映画が好きです。今も日本映画は世界の中で一番面白いと思っています」
RE「その日本映画を愛する俳優が、中国で仕事をすることになった特別な理由などはあるんですか?」
KO「特に大きな理由はありません。中国で仕事があり、それを受けたということだけです。それまで恥ずかしながら、中国という国のことを良く判りませんでしたし、また特別な感情も偏見もありませんでした。中国へ行くとなってから、歴史や映画を自分なりに勉強しました。そして仕事を何度かすることで、中国映画の可能性を感じました。また中国の人たちは本当に親切なんです。ただ、私自身は中国へ行ったということではなく、世界に出たという風に感じています。ですから、それが中国でなくても、もしかしてインドであっても自分にとっては同じことなんです」
RE「中国に対するイメージは、行く前と今では違いますか?」
KO「全然、違います。日本で報道されている中国のことは、ほんの一部だということを感じます。また逆に、中国人も同じように日本のことをよく判らないんです。お互いの情報があまりないんですね。逆にそれが面白いなと感じています。中国人も日本人も優しくて親切なのは同じですよね。人種関係なく、僕たちは『これを題材にして映画を一本撮りたい』ということが一番大切であり、目的なんです」
RE「自分の中国語はどのくらいのレベルだと思われますか?」
KO「今では会話であれば問題なく出来ます。ただ、今度中国での4本目にあたる映画で演じるのは中国人の役なんですが、ネイティブさがどれほど出せるか、若干不安があるので頑張らなければいけないと思っています」
RE「それは、日本人である自分が中国人を演じてもいいのかという葛藤からでしょうか?」
KO「それもあります。もともと日本人役が必要で中国に渡っているのに、これって矛盾しているんじゃないのか、という気持ちです。次回の中国人を演じる映画は、今回の『レジェンド・オブ・フィスト』プロデューサーのゴードン・チャンが監督で声をかけてもらったのですが、僕のことを俳優として評価していただいたことは大変光栄なことです。言葉の話しに戻りますが、俳優たちは台湾、香港、そして中国本土のいろいろな場所から集まってくるので、言葉がお互い通じないことが多々あります。監督でさえ、中国本土の標準語(北京語)を話さないくらいですから。演じてセリフはその場でしゃべりますが、映画完成時にはアテレコで後から声を入れています。ですから、スタッフから『キミも彼らとそんなに変わらないよ』『中国語の発音が多少おかしくても、アテレコだから大丈夫』『キミが自分で思っているほど、キミの中国語は不自然ではないよ』なんて言われています」
RE「今後は中国映画に限らず、他の国からのオファーも受けていくということですね?」
KO「はい、ただ良い映画に出演していけたらいいなと思っています」
RE「日本と中国の撮影現場の違いはありますか?」
KO「ないと思います。ただ全くというわけではありません。脚本がその当日になって変わることがよくあります」
RE「そうなると俳優の能力が問われるところですね」
KO「はい、でもやみくもに変更しているわけではなく、良い映画を作ろうとギリギリまで考えている証拠だと思います」
RE「一年のうち、中国と日本に滞在する割合を教えてください」
KO「中国が8割、日本が2割です」
RE「では、どちらの国の居心地がいいですか?」
KO「それは、日本です。(笑)なぜなら、多くの仲間が住んでいるからです。中国にも少しずつですが、仲間は増えつつあります。でも、やっぱり昔から知っている仲間が日本にはいるので。ただ、中国では生活の面で困ることは一切ありません。ストレスも全くありません。一つだけ友達に会えないことが僕にとっての試練です。でも、今はスカイプとか安い国際電話がありますから、頻繁に話してはいますから、気が紛れてはいますが。ですから、たまに日本に帰ってくるたびに彼らと夜遅くまでバカ話ししながら過ごしています。酒はあまり飲めませんが、酒の場は大好きです」
RE「すいません、お聞きしなければならないことが、随分と映画のことからかけ離れてしまったようです。最後に『レジェンド・オブ・フィスト』のPRを木幡さんからお聞きしたいと思います」
KO「世界に通用するアクションシーンを是非劇場でご覧になってください」
RE「ありがとうございました」
KO「ありがとうございました」
木幡は今回の『レジェンド・オブ・フィスト』でのアクションが認められ、次回の2作品もアクション映画に出演することになったという。
千葉真一や、この『レジェンド・オブ・フィスト』にも出演している倉田保昭が日本人として、70年代から現在に至るまで香港や中国本土で絶大な人気を誇っているように、木幡竜という彼らの系譜を受け継いだ、新たな“中国電影”日本人スターが誕生するのも、もうすぐと思われる。
■『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』
■9月17日(土)より新宿武蔵野館、立川シネマシティ、ワーナーマイカル新潟南にて、9月24日(土)よりシネマート心斎橋、他全国順次公開
■監督:アンドリュー・ラウ プロデューサー:ゴードン・チャン 撮影:アンドリュー・ラウ、ン・マンチン アクション監督:ドニー・イェン 武術指導:谷垣健治
■出演:ドニー・イェン/スー・チー/アンソニー・ウォン/ホアン・ボー/ショーン・ユー/木幡竜/倉田保昭/AKIRA(EXILE)
■原題:精武風雲・陳真/2010年/中国/カラー/105分/シネスコ/ドルビーSDR/字幕翻訳:寺尾次郎
■提供・配給:ツイン 配給協力:太秦
■公式HP:http://www.ikarinotekken.com/