ザラテはBCリーグ・群馬ダイヤモンドペガサスに在籍していた。昨年、彼が登板する試合を何回か観たが、「本当に外国人か!?」というのが第一印象だった。ストレートは見応えがあった。「群馬のチャップマン」(第2回WBCキューバ代表投手/現レッズ)と称されるほど速く、コントロールも悪くない。速球派の外国人投手は四球で自滅するタイプも多いが、「本当に外国人投手か!?」と思った理由は、そのことではない。クイックや牽制、一塁へのベースカバーなどの細かいプレーが巧く、「ベネズエラ出身、米ルーキーリーグ、1A経由」の経歴を疑いたくなるほどだった。
当然、スタンドには各球団のスカウトが頻繁に顔を出していた。彼らは「群馬の高校野球を見たついでに」「明日、新潟なんだけど…」と話していた。高校球児のスカウティングのついでに足を伸ばしたのだろう。
スカウトが直接見て、その実力を確かめられる利点は大きい。
また、ザラテが「米ルーキーリーグの出身」なのも面白い。米国メディア陣によれば、「ルーキーリーグには150キロを出す投手はたくさんいる」と言う。その大多数がメジャーに昇格できず、消えてしまうのだが、ザラテのようにクイックや牽制の能力が高ければ、日本のプロ野球を『結果』を出してから、メジャーに再挑戦することも可能となる。むしろ、2A、3Aを経由するよりも『近道』かもしれない。
日本のプロ野球側にすれば、独立リーグを経験しているので、日本の生活習慣を教える手間も省ける。年俸も安く抑えられる。
ザラテが阪神で結果を出せば、ルーキーリーグで埋もれている“原石たち”も、NPBスカウトに見てもらうため、日本の独立リーグに売り込みを掛けてくるのではないだろうか。
近年、「外国人選手の使い回し」も多くなった。どの球団にも優秀な渉外担当者がいる。だが、日本の野球スタイルや食生活などを知らない外国人選手に対し、活躍できるかどうか、100%の確証が持てないため、「多少成績が落ちても、確実に計算できる経験者」を選んでしまうのだ。その善し悪しは別として、なぜ、確実に計算できる方を選ぶかといえば、おおむね、どの球団も「クリーンアップの一角、3連戦の初戦を託す先発、クローザー」のいずれかを外国人選手に委ねている。これらのポジショニングは『チームの生命線』だからである。
ザラテには150キロ強の真っ直ぐと、スライダー系の変化球があるが、唯一の弱点は球種が多くないことだろう。あくまでもBCリーグを観た私見ではあるが、球種が少ないので、先発よりも、セットアッパーが適任だと思われる。阪神ブルペンは、榎田、小林宏、川崎、久保田など人材も豊富だ。目立った役どころはまわって来ないかもしれないが、榎田、川崎とも違うタイプの左投手なので、投手継投策の幅を確実に広げてくれるはずだ。
そうなれば、他球団スカウトはもっと頻繁に独立リーグに足を運ぶだろう。野球の国際試合が行われ、またメジャーリーグがより身近になった今、外国人選手のNPB入りはむしろ歓迎すべきだが、『チームの生命線』を委ねすぎる傾向はいかがかと思う。異色の経歴、独立リーグ出身の快速左腕を甲子園でも観てみたい。(スポーツライター・美山和也)