それは、米英豪、スウェーデンの専門家を含む軍民合同調査団が、天安は北朝鮮の攻撃によって沈没したとの調査結果を発表した後も変わらず、むしろ対立は激化しているとさえ言えるかのような状況となっている。まず、天安爆沈事件については、北朝鮮の攻撃説の外に遺棄機雷説や魚雷誤射説、衝突事故説など、さまざまな仮説が唱えられている。中でも、事故の直後からささやかれていた米軍誤射説は南北統一と反米という観点から政治的に都合がよく、現在もなおある程度の支持を得ているとされる。
また、同様に反米派などから強い支持を集めた「米軍潜水艦との衝突説」であるが、これは座礁説と並んで合同調査団の委員も提唱するなど、無視できない影響力があった。とはいえ、この仮説については被害状況が明らかに爆発による破壊を示しており、さらに衝突によって被害を受けた、あるいは沈没した潜水艦も特定できないことなどから、現在では残念な扱いを受けている。
しかし2012年には韓国地震研究所とイスラエル物理研究所の合同調査グループが、衝撃的な論文を国際学術誌「国際純粋・応用地球物理学」に発表し、天安爆沈を巡る論争は再び加熱したのである。その論文は、爆発時の地震波などを解析した結果、魚雷ではなく機雷による爆発が生じていた可能性が高く、沈没海域には韓国海軍が機雷を敷設したまま、遺棄していたことなどから、再調査の必要があるとの結論づけていた。さらに、沈没海域では機雷の自然発火が何度か発生していたにもかかわらず、韓国海軍はその事実を公表していなかったとの報道もなされた。その他、ロシアの調査団が「スクリューに絡まった漁網ごと遺棄機雷を引き上げ、天安は爆発に至った」との仮説を唱えるなど、にわかに機雷が注目を集めている。
もちろん、韓国海軍は軍民合同調査団の結論を支持し、北朝鮮による攻撃との見方を変えてはいない。だが、韓国国内における異論は根強く、国会で取り上げられた教科書問題は、世論の分裂状況を反映しているといえよう。天安沈没事件の真相が解明されるには、さらに時間が必要かもしれない。
(了)