まず、事件の流れをかいつまんで説明すると、現地時間21時45分頃(日本との時差はない)にペンニョン島近海を航行していた天安の後方で大爆発が発生、船体は衝撃で折れ、たちまち沈没した。生存者の救出や遺体の収容とともに船体の引き揚げも勧められ、翌月には前半部の浮上と回収に成功する。残骸を調査した結果、爆発は船体内部で発生しておらず、外部からの衝撃で破壊されたことが確定し、天安は何者かによる攻撃を受けて沈没した可能性が極めて高いとされた。
現場は韓国と北朝鮮の見解が対立している境界海域で、前年にも両国の軍事的な衝突が発生していた。そのため、国際的な真相究明機関が設置され、中立的観点からの調査が行われたが、当初から北朝鮮による破壊工作説がささやかれていた。そして、事件から数週間後に米英豪、スウェーデンの専門家を含む軍民合同調査団が、天安は北朝鮮の攻撃によって沈没したとの調査結果を発表したのである。その根拠はいくつかあるが、爆発音の記録や引き上げられた船体の損傷状況からの情報に加えて、北朝鮮の水噴出推進式魚雷の破片を回収したとされることなどだ。そして、魚雷は付近に潜伏していた北朝鮮の小型潜水艇から発射されたも可能性が高いと結論づけていた。
調査結果を受け、サミットや国連安保理では北朝鮮を非難する宣言や声明が出されたものの、北朝鮮はそれらを完全に無視した他、韓国の国内でも調査結果に疑問を持つ人々が独自の調査を開始していた。たしかに、北朝鮮はこれまでにも韓国へのテロ攻撃を行っていたし、前年に発生した軍事衝突の報復を目的としていたとの仮説にも説得力はあった。また、哨戒艦は水中から隠密侵入を試みる潜水艦を発見、阻止するのが任務であり、それが目標たる潜水艦の攻撃によって撃沈されたというのは、いささか不名誉な結論でもあった。
そのため、主に韓国では合同調査団の報告とは異なる仮説がいつくか唱えられ、最近ではそのひとつが注目を集めている。だが、それはより衝撃的かつ、韓国海軍にとって不名誉な内容であった。
(続く)