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『兵馬の旗』第1巻、現代感あふれる幕末物

 かわぐちかいじがビッグコミックで連載中の歴史漫画『兵馬の旗〜Revolutionary Wars〜』第1巻が、7月29日に発売された。『沈黙の艦隊』や『ジパング』、『太陽の黙示録』と壮大なスケールで日本という国家像を問うてきた、かわぐちかいじの新作は一転して幕末物になった。しかし、過去の作品と同一線上の現代感あふれる作品になっている。

 主人公は幕府旗本の宇津木兵馬で、幕府側の立場から戊辰戦争を描く。兵馬はロシア留学経験のある開明派で、帰国後は幕府の西洋式精鋭部隊・伝習隊の将校となる。物語は鳥羽・伏見の戦いで幕を開ける。史実通りに幕府軍は敗退するが、宇津木の一隊は最新の軍備を活かして奮闘する。幕府の大敗と記録される鳥羽伏見の戦いであるが、様々な局面があり、薩長も危険な綱渡りをしていた状況が描かれる。

 かわぐちかいじは、これまで現代社会を主な舞台として、自分で考え行動する強烈な近代的自我を持った人間を描いてきた。それは『兵馬の旗』でも健在である。『兵馬の旗』の登場人物には忠義という封建的思想は希薄である。鳥羽・伏見の戦いという幕末の終わりから物語が始まるため。尊王や攘夷という幕末を熱狂させた思想も希薄である。

 薩長軍に錦の御旗が掲げられ、朝敵の汚名を怖れた幕府軍の士気が低下する点は史実と同じであるが、本書では登場人物達が錦の御旗の効果を冷静に計算している。朝廷側すら錦の御旗を掲げれば安泰とは考えていない。新選組の土方歳三も登場するが、世の中を達観した人物として描かれている。幕末を舞台としているが、登場人物の思考形態は近代人のものである。

 また、兵馬の属する伝習隊はフランス式軍制に則っており、洋装の軍服や最新式の小銃を標準装備し、大尉や中尉などの階級で呼び合っている。史実通りの設定であるが、かわぐちかいじの画では戦前の日本軍のように見えてしまう。まるで『ジパング』のように、近代軍の一部隊が幕末にタイムスリップした物語かと勘違いしそうである。

 何よりも主人公の兵馬が近代人である。日本ではチョンマゲを結った和装の兵馬であるが、回想シーンのヨーロッパでの洋装の兵馬の方が活き活きとしている。これらの現代感は、歴史物として新鮮という好感と歴史物らしくないとの不満に意見が分かれるところである。テレビの時代劇がチョンマゲを付けた現代劇と言われて久しい。チョンマゲを付けた現代劇の漫画作品にも注目である。
(林田力)

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