最初はウクライナがNATO寄りになっているのが気に入らなかった。ウクライナが親NATO反ロシアを許しておけば、他の東欧諸国や北欧諸国もNATO入りを希望するかもしれない。
そこでプーチンは「ウクライナで虐待されている親ロシア派やロシア人を助け、ウクライナのネオナチを成敗する」と主張して、侵攻を開始した。
それが昨年5月フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を希望した。藪をつついて蛇を出してしまったわけだ。
フィンランドの加盟はわりとスムーズに進んだが、親ロシア的と思われていたトルコのエルドアン大統領は「スウェーデンは、クルド人のテロリストを支援している」と、加盟に反対していた。
それが今年7月、エルドアン大統領は急転、スウェーデンのNATO加盟を認め、32番目のNATO加盟国になることになった。プーチンにしてみれば、味方だと思っていたエルドアン大統領に裏切られた気分だろう。
フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟することで、バルト海は完全にNATOに封じ込められることになる。
プーチンが失ったものはバルト海だけではない。スウェーデンの加盟を認めたトルコは、黒海の出入り口であるボスポラス海峡とダーダネルス海峡は、トルコの海なのだ。黒海もまた失ったようなものだ。
さらにプーチンにとってショックだったのは、ワグネルの反乱に仲介に乗り出したベラルーシのルカシェンコ大統領が、ロシア離れを起こそうとしているらしいのだ。
ベラルーシと言えば、ロシアは6月に戦術核兵器を移送している。ルカシェンコ大統領は7月7日に「ほとんどの核弾頭は搬入している」とし、核の使用については「ベラルーシが侵略された場合、即座に反応する」と語った。
ベラルーシに配備する戦術核兵器については「ロシアの言いなりにならない」ことを強調した。ロシアから送られた核兵器はNATOに向けられるとは限らない。ルカシェンコ大統領のいう「侵略」とは、ロシアに対して言っているかも知れないのだ。
このルカシェンコ氏、最近存在感を増し、プーチンとの立場がこれまでの、従属的から対等、あるいは逆転したのでは? とさえいう人が出るくらい態度が変わった。
スウェーデンのNATO入り、トルコの裏切り、ベラルーシの心変わりと、プーチンの孤立は深まるばかりだ。
プロフィール
巨椋修(おぐらおさむ)
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、42歳で映画監督。社会問題、歴史、宗教、政治、経済についての執筆が多い。
2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。陽明門護身拳法5段。