6月7日、阪神は大幅な打線改造で楽天戦に臨んだ。「3番DH・前川右京、9番左翼・島田海吏」、梅野隆太郎を6番に据え、ノイジーを外した新打線が14安打11得点と爆発した。
“予兆”は「前夜の監督談話」以外にもあった。試合前、屋外のフリー打撃練習の順番が貼り出されるのだが、どの球団も「スタメン出場する選手」から先にケージに入る。前日まで後ろから数えた方が早かった前川の名前が「最初の優先者枠」にあったのだ。
「打ったなあ。見事的中したなあ。全部俺がやってんやけどな(笑)。前川の3番はオレが進言したけどな」
>>阪神・岡田監督、怒りの打線改造? 不振助っ人に苦言連発、試合前の疲労対策も効果薄か<<
近本光司、中野拓夢の「1・2番コンビ」が好調だ。4番・大山悠輔には一発の脅威がある。となれば、対戦投手は「3番バッター」と勝負しなければならない。前夜の岡田監督の言葉を借りれば、「見送ればボール・カウントになる球に手を出していた」ノイジーよりも上り調子の前川を使ったということだが、一歩間違えれば、大敗の可能性を秘めていた。
「9人中6人が左バッターですよ。阪神は控えの外野手陣に右バッターが少ないので」(球界関係者)
楽天の先発は、田中将大。右投手だ。しかし、クローザーの松井裕樹は左腕であり、中継ぎ投手陣に「左がいない」ことで“左偏重の打線”でもイケルと見たそうだ。
さらにまた、こんな情報も聞かれた。
「岡田監督は佐藤輝明の状態を心配していました。同日も三塁打2本と活躍していますが、打球が上がらず、ライナー性のヒットが続いていました。決して悪いことではないんですが、佐藤自身がホームランを欲しがり、バッティングがちょっと強引になっている、と」(前出・同)
こうしたチーム状況を聞かされると、この「6月7日の楽天戦」が2023年の阪神にとって、分岐点となったのではないだろうか。
というのは、左の中継ぎ投手がいないことで“大胆な打線改造”ができたわけだが、僅差のゲーム展開、あるいはビハインド状態で試合終盤に突入した場合、左腕クローザー・松井との勝負は避けられない。
岡田監督は「松井を登板させない試合展開」をイメージし、試合序盤で勝負を決めるつもりでいた。しかし、実際は1点の最少リードのまま試合は進み、打者3巡目の5回に追加点を取って、ようやく岡田監督のイメージした「松井を投入させない」展開になった。
「前川が第1、2打席でヒットを放ちましたが、試合序盤の岡田監督はムッとしていました。でも、選手たちが岡田監督の意図を理解し、3巡目以降になんとかしてくれて」(同)
指揮官と選手が一つになった試合でもある。
蛇足になるが、田中の直球に往年のスピードはない。スプリットやスライダーで打ち損じを誘う投球術はさすがであり、阪神打線が序盤戦に苦しんだのはそのせいだ。制球力の高い田中と対戦し、阪神打線は「ボール球に手を出すな!」の岡田監督の言葉を実感したのではないだろうか。(スポーツライター・飯山満)