マスコミの多くは、中国がロシアに寄り添ったとか、連携を強化したとか報道しているが、会談を読み解いていくと、ロシアの思惑は全敗といっていいほどで、プーチンの顔色はまったくさえなかった。
習近平は首脳会談の冒頭で、「ロシアは来年、大統領選挙が行われるが、ロシア国民が必ずあなたを支持すると私は信じている」と語ったのだ。
まるで「おまえ本当に選挙は大丈夫なんだろうな」とも、内政干渉とも取られかねない発言に対して、プーチンは何も言い返せなかった。
ウクライナ侵攻がはじまってから、プーチンの習近平への態度は明らかに変わった。習近平だけではなく、友好国代表への態度も変わった。
昨年9月、ウズベキスタンで行われた上海協力機構(SCO)首脳会議でも、これまで見下すような態度であった旧ソ連構成国の代表に平身低頭の姿勢が目立っていた。
もはや戦争前の堂々とした態度はなくなり、何か媚びるような、あるいはすがるような態度に変化してきたのだ。
今回、習近平との会談直前に、岸田首相がインドのモディ首相と会談。岸田首相がG7に招待すると、モディ首相は即答で参加する意向を示した。プーチンにしてみれば、インドがロシアから遠のいていくような気分であっただろう。
今回、プーチンが一番欲しかったのは中国からの武器支援であった。しかし習近平は、会談後ロシアへの具体的な軍事支援について何も語らなかった。おそらく軍事支援を断ったのであろう。これだけでも中露首脳会談は失敗である。
さらにいまヨーロッパは経済制裁で石油や天然ガスを買ってくれなくなった。そのため余った石油や天然ガスを買い支えていたのが、中国とインドだが、中国へさらにモンゴル経由のパイプラインを増やそうと計画をしていたが、今回習近平はそれも断ったらしい。
習近平としては、石油や天然ガスをロシアに依存しすぎるのを警戒し、他の国からの輸入を増やすつもりらしいのだ。
プーチンとしては、中国に石油などを依存させることで、ロシアの存在感を高めたかったのだが、これもうまくいかなかったことになる。
今回の中露首脳会談では、ロシアの主張はほとんど通らなかった。むしろこのままでは中国に支配されかねない状態であることがあらわになった。
そのせいかどうか、中露共同声明で「核兵器を自国領土の外に配備すべきではない」としておきながら、数日後に、プーチンはベラルーシに戦術核兵器を配備することで合意と、共同声明違反ともとれる発言をした。
現実的にはベラルーシに核兵器を置いたところで、ウクライナ戦争が特に有利になるわけではない。すでにウクライナ国境近くにクルスク空軍基地とロストフ空軍基地があるからだ。
よってただ口だけのハッタリであると思われるが、これはプーチンのせめてもの抵抗であるのかもしれない。それほどいまロシアは西側諸国だけではなく、中国からも圧迫されているのだ。
プロフィール
巨椋修(おぐらおさむ)
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、42歳で映画監督。社会問題、歴史、宗教、政治、経済についての執筆が多い。
2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。陽明門護身拳法5段。