ストーリーは1972年の大晦日の晩、蕎麦店に子どもを2人連れた母親が現れる。3人で一杯のかけそばを注文したため、店主は1.5人前を茹でて出した。母子の父親は交通事故で亡くなっており、好きだった店へ父を偲びやってきた。母子は翌年も1杯、翌々年は2杯のかけそばを注文するが、その後音沙汰がなく、十数年後に成長した2人の子どもと母親が現れ、3杯のかけそばを食したなるものだ。
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この話は実話を元にしていると言われた。折しも当時の日本はバブル経済の真っ只中である。「一杯のかけそば」がもたらす、貧しくとも清いストーリーは失われた大事なものとして崇められたのだろう。
この話は国会でも取り上げられ、89年2月17日の衆議院予算委員会の審議で、公明党の大久保直彦衆議院議員(肩書は当時)が時の首相であった竹下登氏に対する質疑でほぼ全文朗読した。これは大規模な収賄事件であるリクルート事件に関する質問で読み上げたもの。汚職事件に対する質問に清らかな物語をぶつける意図があったのだろう。この話には、大物政治家の金丸信氏も涙としたと言われる。
ところが、「一杯のかけそば」ブームは間もなく終了する。ストーリーに辻褄が合わない部分があるとして、各方面からツッコミが入ったためだ。1杯のかけそばの値段は150円とされたが、タモリは『笑っていいとも!』(フジテレビ系)で「当時150円ならばインスタントのそばが3個買えた」と強烈なツッコミを入れている。さらに作者の栗良平氏の学歴詐称などの素性が週刊誌で報じられると、一気にブームは去って行った。
一連の報道を見る限り、「一杯のかけそば」は少なくとも「実話」ではなく、創作度の高い物語ということになるのだろう。国会議員まで騙されてしまったのは、それほどよく出来た話であったとも言えそうだ。