「謡かたり『隅田川』」は、世界無形文化遺産に選ばれる能・文楽・歌舞伎の演者がコラボレーションして行うすみだトリフォニーホール開館25周年特別企画の舞台。「隅田川物」は木母寺に千年前から伝わる平安時代に亡くなった梅若丸と母親の「梅若伝説」が基となって、能・文楽・歌舞伎のそれぞれの芸能に普及して行ったが、本舞台では、大倉や、人間国宝で浄瑠璃の豊竹咲太夫とともに、菊五郎家や墨田区と縁の深い菊之助が「梅若丸の母」を演じ、愛する我が子を探し求めて狂女となる母親の悲劇を描く。
菊之助は本公演について、「まず『隅田川』の世界観を広く知ってもらうのが大切だと思っています」と述べ、「『隅田川』は子どもを探して母が旅をし、隅田川の辺りで船頭から子どもがすでに亡くなっていることを聞かされるという物語。彼女はそこまでずっと旅をしてきて、悲嘆にくれ、母親の目的もそこで一旦終わるんですが、彼女はそこから息子の供養というところに心が向かって行き、第二の人生を歩んで行く」と物語を紹介。
その上で、「それは今、自分が何か目的を探して、やりたいことが見つからないというような、例えば就職を探しているような方たちの気持ちともリンクするようなところがあると思います」と自身の見解を述べ、「目的を見失っている人たちに、たとえそれが納得行かない結果であっても、もう一回新たな目的を見つけるというこの『隅田川』の物語がどう映るかというのを、自分が演じることで問いたい。この役を演じることは自分にとっても一つの挑戦でもあると思います」と話した。
能や文楽とのコラボについても、「大倉源次郎さんの素晴らしい小鼓に身を置かせていただくと、自分がこれまで稽古させていただいたことより、もっと深い心情が生まれたりするでしょう。そして、咲太夫師匠の語りに身を置きますと、私と師匠の掛け合いのようなところがあるんですけども、師匠のお力で引っ張っていただいて、いつも以上の力が出せてしまうことが前回の公演でもあった。先輩たちと同じ板に立たせてもらうということで、これまで以上に精進して、一期一会の化学反応を楽しみたい」と話していた。
(取材・文:名鹿祥史)※文中一部敬称略