トニー・コフィは16歳のとき、ノッティンガムで建設業者の見習いとして働いていた。彼はある日、作業中にビルの3階から転落してしまったのだが、その時奇妙な体験をしたという。
地面に落ちていくまでの間、時間が大幅に遅くなったように感じられたばかりでなく、「まだ生まれてもいない子どもや、見たこともないのに今では友達になっている人物」など、たくさんのものが脳裏に浮かび上がったのだ。その中でも特に印象に残ったのは、「楽器を演奏している自分」の姿だったという。その直後、彼は頭から地面にたたき付けられて意識を失った。その後、彼は病院で意識を取り戻したそうだが、これまでの生活に違和感を抱き、落下の際に見た様々な光景がフラッシュバックするようになった。
あれは、本当に自分の姿だったのではないか。そう考えた彼は夢で見た楽器のサックスを購入。それは驚くほど彼の手になじみ、またたく間に演奏をマスター。イギリスを代表するサックス奏者にまで上り詰めたのである。まさしく、事故の際に見た「走馬灯」通りの生活を送るようになったのだ。
死に際や命の危機に瀕したとき、人生の様々な光景が脳裏に思い浮かぶことを「走馬灯のよう」と表現する。また、実際に走馬灯を見たという体験を持つ人は世界中に存在する(コフィ氏のように未来の自分の姿を見たというケースは珍しいが)。しかし、「走馬灯」に関する研究はほとんどなされておらず、原理についても未だ確立したものはない。
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例えば2017年にイスラエルの研究者グループは、人生の中で経験した出来事が心の中で連続体として存在し、心理的・生理的なストレスが極限に達したときに前面に出てくるのではないかという説を述べている。強いストレスや危険な状況下で脳の正常なプロセス調節ができなくなった結果、連鎖的に過去の記憶やイメージを想起するのではというものだ。
だが、走馬灯を見た人たちから寄せられる報告は「時間がゆっくりと流れていた」という内容が多い。膨大な記憶情報の処理がされたにもかかわらず、体感する時間の流れが遅く感じることの説明がつかないという意見もあった。
一方で、人間が体感する時間の認識は、意識状態の産物であるという説もある。意識が変化した状態で時間の流れが劇的に遅くなり、数秒が数分にも感じられたという体験をする人がいる。これは緊急事態だけでなく、深い瞑想状態やスポーツ選手が「ゾーン」に入った時、またサイケデリック・ドラッグの体験時に見られる現象だという。
いずれにせよ、現在ではまだ説明されていない何らかの現象が我々の体内で起きた結果「走馬灯」が現れるのかもしれない。
(山口敏太郎)
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NDEs: 'my life flashed before my eyes'(unexplained-mysteries.com)より
https://www.unexplained-mysteries.com/news/347779/ndes-my-life-flashed-before-my-eyes