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世界的建築家の隈氏。「建築デザインの時に床や壁で使いたい材料がないと思っていました。そういうものを自分で職人さんと作ることができたら楽しいんじゃないか」と考えたのがきっかけ。立ち上げから5年弱を要したプロジェクトを「材料や職人技の深さを発見するうちにあっという間に過ぎた」と振り返った。
建築材料の選定は隈氏にとって「儀式」とも言われる重要なプロセス。その理由を「かなり集中するんです。意識を集中してその空間に自分がワープし、壁、床、天井を吟味する。設計のプロセスの中でもかなり集中的に行うので儀式と呼んでいます」と説明した。
“しゃらしゃら(SHARA SHARA)”、“もわもわ(MOWA MOWA)”などオノマトペ(擬音語、擬態語)を冠したコレクションに、「それ以外の言葉で表現できない状態を形にしたい。世界で誰も試みたことがないものができたと思っています」と納得の表情。オノマトペは隈氏の事務所でも日常的に使われているそうで、「外国人のスタッフも入ってしばらくするとオノマトペを使うようになります。実は一番わかりやすくて公用語になっています」と独自のイメージ共有法も明かした。
コレクションでは、作家・谷崎潤一郎の『陰翳礼賛』から着想を得て、「陰影」をキーワードに日本の伝統的な美を追求。「ヨーロッパの建築は光なんです。でも光は必ず影を生むようになっていて、その影の部分にいろいろな豊かなテクスチャーや質感がある。材料技術界初の谷崎的な転換」と評価した。
「世界のいろんなところで、日本の職人さんがいてくれたらと思うんですが、今回は日本の技術全体の底力を体感できた」と隈氏。「光と影に気付くことで、そこで起きる自然現象に繊細になれる。コロナ禍で一つの空間にじっとしているのが多くなり、そこで起きる様々な現象に気付きたいという世の中の流れに合っているのではないか」と話した。
(写真・文:石河コウヘイ)