柳川さんが御嵩町の町長に就任したのは1995年。町民や支援者らの強い希望により、元NHK記者の柳川さんが立ち上がったのだという。柳川さんは真っ先に、住民の反対を押し切って進められていた産業廃棄物処分場の計画を一旦止めることにしたのだが、そこから異変が始まる。
議場に戦闘服を着た不審な男らが現れヤジを飛ばし、町を攻撃するという怪文書がばらまかれるようになったのだ。産業廃棄物処分場について考える住民の会合場所に、切断されたウサギの脚が置かれたこともあったという。さらに、柳川さん宅に盗聴器が仕掛けられる事件が発生した。犯人らは盗聴の目的を「産業廃棄物処分場反対派町長のスキャンダルを探すため」と供述。また、御嵩町に処分場を計画した産業廃棄物処理業者(寿和工業)から数千万円の現金を受け取っていたことも判明した。犯人グループは、元暴力団員と政治団体員で構成されていた。そして、柳川さんが襲撃される事件が発生する。自宅エレベーター付近で突然2人組の男に襲撃されたのだ。中背と大柄な男の2人組だったというが、暗がりから不意に一撃をくらったため、記憶は途切れ途切れだと柳川さんは当時取材で話している。柳川さんは頭蓋骨骨折の重傷を負い、一時意識不明に陥る事態となった。幸いにも意識は取り戻し、一か月間入院したのちに職務に復帰した。
当然、柳川さんに盗聴を仕掛けたグループや寿和工業との関連が疑われたが、警察は事件に繋がる証拠を見つけられなかった。盗聴事件の犯人と関係している寿和工業に強制捜査が行われないなど、警察の捜査には疑問点も残されていたため、後に柳川さんは県警に質問状を提出している。しかし、県警からの回答は「寿和工業への強制捜査は、捜査上の必要性などを考慮の上行われなかった」と説明するにとどまった。
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御嵩町の産業廃棄物処分場建設を巡っては、県と町の間でも意見の対立が起きていた。許認可権を持つ県は、処分場の必要性を認めており、旧環境庁からの「国定公園内の処分場計画は認めない」という通知を、1年以上市町村に連絡しないという措置も取っていたという。
柳川さんは事件後も町長を続け、2007年4月まで務め上げた。事件をきっかけに実施された住民投票で、産業廃棄物処分場の反対が圧倒的多数となったものの、建設を巡ってはその後10年間に渡り議論が続いた。建設を賛成する県や寿和工業と対立が続いたのだ。産業廃棄物処理場の建設の中止が決定したのは2008年3月26日。紆余曲折を経て、県知事と当時の町長、さらに寿和工業が県庁で会談を行い、処分場建設の許可申請が取り下げられることになった。柳川さんが就任する前には、御嵩町に業者から数十億円の寄付が約束される秘密協定が結ばれていたといい、小さな町で巨額の大金が動いていたことが分かる。一体、誰が柳川さんを襲わせたのか。犯人はまだ野放しのままだ。