4月21日、中日ドラゴンズの主力選手たちがナゴヤ球場で練習を行った。そのキャッチボールのシーンを見てまず思ったのは、ボールの勢いがキャンプ中とは全く違うこと。当たり前の話だが、選手の体は完璧に出来上がっている。ユニフォームは着ていない。トレーニング・ウエアだ。彼らはマスクも着けていて、キャッチボール終了と同時にアルコール消毒液を手に付けていた。
「今後もマスク着用で練習していくそうです。マスクを着けて運動をしているので顔中が汗だらけになり、一人が消費するマスクの数もけっこうな枚数になるようです」(地元メディア)
また同日、一部選手が“テレワーク”による質疑に応じている。選手、担当記者団ともに「ヘンな感じ」と苦笑いしていた。他球団を取材した際には、「3メートル以上離れて質問してくれ」と告げられた。大きな声での質問もやりにくかったが、これらは慣れるしかない。しかし、開幕戦の調整を行うNPBの取材班からはこんな声も聞かれた。
「試合中に手を消毒するだけではなく、マスク着用もあり得る状況です」
冗談みたいな話だが、スポーツ興行の再開に批判的な声も少なくない。「無観客」だけではなく、至近距離での接触にも対処しているところをファンに見せる必要があるのかもしれない。
「練習施設のシャワーの使用を禁止したチームもあります。選手は大変だと思います」(ベテラン記者)
また、同日の与田剛監督だが、三塁側ベンチに座り、腕組みをしたまま選手たちを見守っていた。伊東勤ヘッドコーチはネット裏にいた。“3密”状況になるのを防いだのだろう。
三塁側ベンチ。その与田監督の選手を見守る“ポジション取り”に「野球観」が秘められていた。どの球団もそうだが、監督は基本的に練習には口を挟まない。担当コーチに託し、一歩引いたところからチーム全体を見ているのだが、与田監督はホームのベンチとなる一塁側ではなく、三塁側に座ることが多い。
「一般的には、自軍ベンチに座っている監督が多いですね」(前出・同)
元中日指揮官でもある落合博満氏はバックネット下だった。やや三塁側で球場整備用のクルマの運転席に座るか、同じ箇所にある関係者席に入り、ガラス越しに見ていた。落合監督は作戦に関する質問には一切応じてくれなかったので、いつもこの位置で練習を見ていたのか理由は分からないが、「選手全員が見えるところ」(関係者)とも言われていた。
「与田監督の場合、一塁側ではなく、ビジターの三塁側というところが興味深い。普段見えないものが見えてくればと思っているのでは」(球界関係者)
与田監督は練習終了後、早々に球場を立ち去ってしまった。違和感だらけの練習の中で、何を感じ取っていたのだろうか。練習中は選手も「野球ができる喜び」を感じていたようだが、私生活では悶々としているという。普段は座らないビジター側のベンチから見ることで、選手のメンタル面を探ろうとしていたのかもしれない。(スポーツライター・飯山満)