しかし、この長い公式戦までの期間は、若手選手の“可能性”を広げたようだ。将来の主砲候補、中日のドライチルーキー・石川昂弥内野手のことである。
「石川には三塁を守らせる予定。守備の負担の少ないポジションで試合経験を積ませ、打撃優先で育てていくつもり」(名古屋在住記者)
ナゴヤ球場近くの室内練習場で二軍の守備練習が行われ(4月1日)、石川はショートでノックを受けていた。「二塁・根尾昂、遊撃・石川」で組んで、併殺プレーの練習もこなしていた。だが、30分もしないうちに根尾と石川が入れ代わった。「二塁・石川、遊撃・根尾」。根尾は大阪桐蔭時代からショートを守ってきた。石川はセカンドを守った経験がないからだろう。苦笑いをしていた。気分転換もかねての入れ換えだったが、「二塁手・石川」は根尾以上に輝いていた。
二塁ベース上で根尾からの送球を捕り、一塁送球までの軽快な動き。ノックを捕球してから、二塁ベースに入る根尾への正確な投球には目を見張るものがあった。「二塁・石川」は実戦でもイケるんじゃないか?
「東邦高校時代は主に投手。セカンドを守れるなんて聞いたことがありませんでした。でも、仁村徹二軍監督も褒めていました」(前出・同)
身長185センチ、体重93㎏という石川の体格を考えると、セカンドタイプではないのかもしれない。しかし、「3割、30本、30盗塁」の東京ヤクルト・山田哲人も二塁手だ。内野手出身のプロ野球解説者に「二塁手に求められるもの」を聞いてみた。
「打点王(13年、18年)のタイトルを獲得した浅村栄斗も二塁を守っています(注・13年は主に一塁)。過去、首位打者のタイトルを獲得した二塁手も少なくありません。真弓明信(83年)、篠塚利夫(87年/登録名は当時)、辻発彦(93年)、今岡誠(03年)などがそうで、要するに、投打ともに野球センスの高い選手」
長打力のある二塁手は多くない。小久保裕紀が本塁打王のタイトルを獲得した95年は二塁手だったが、打撃センスを開花させたのは三塁手に専念してからである。
興味深いデータも残っていた。落合博満が初めて三冠王に輝いた82年は二塁手だったのだ。同年、127試合、セカンドの守備についており、失策はわずか7。三冠王は守備も巧かったことが証明されている。
「石川が二塁手の素質があると分かっただけでも収獲です。仁村二軍監督は試合の中でも石川に二塁を守らせていくと思います」(前出・名古屋在住記者)
開幕戦が遅れた分、練習の時間が増えた。この様々なことをテストできる期間が、落合以来となる“二塁手の三冠王”の誕生にも発展するかもしれない。どんよりとしたグラウンドに一縷の光が…。夢を見せてくれた。やっぱり、石川は並みの新人ではない。(一部敬称略/スポーツライター・飯山満)