★日本人の知らないイスラム最前線
元阪神の川藤幸三氏を指して“浪花の春団治”と呼ぶ向きがあるが、あれはおかしい。桂春団治はもともと上方落語界の大名跡なのだから、浪花なのは当たり前で、どうしても例えたいなら“球界の春団治”とすべきではないのか?
同様にイスラム原理主義という言葉も、本来の意味としてはややおかしな響きを帯びてしまうらしい。世間一般的には武装して軍事行動やテロ攻撃を繰り返し、残虐な刑罰も含め厳格なイスラム法にのみ服する過激派集団をその表現で形容しがちだが、著者によればそもそもイスラム教徒ならばその時点で全員誰もが原理主義者なのだそうだ。
中世以前のヨーロッパで、ギリシャ・ラテン語の読める聖職者たちだけが聖書の知識を独占したように、イスラム教圏諸国においては、法学者と称する一部の特権階級が聖典『コーラン』にせよ、ムハンマドの言行録『ハディース』にせよ、その正しい解釈を一手に担い、世俗権力と国民大衆を媒介する形で教えを広めてきた。ところが、インターネットの普及がもたらした情報革命の結果、クリック一つでアクセス可能になった『コーラン』原典には何と記してあったか? “異教徒は殺してよい”“この地上にアラーの教えにのみ従う人間しかいなくなるまでジハード(聖戦)せよ”とある。
悪名高い「イスラム国」だが、やっていることは実は、『コーラン』にひたすら忠実なだけにすぎない…この恐るべき現実を直視すれば、「なぜ一流大学出のエリートがオウム真理教に入信してしまうのか」といった類の問いとは異なる風景が見えてくる。外食産業でも「ハラール(イスラム法で許される食品の種類)対応」が定着してきた昨今、基礎認識を改める上で必読の書だ。
(居島一平/芸人)
【昇天の1冊】
「城下町」と聞いて、何を連想するだろう。多くの人は、そこを治めた我が町のお殿様を連想するだろうか…。彦根城であれば井伊家、弘前城であれば津軽家。もちろん、そうした御家は城下町の整備、発達に重要な役割を果たしてきた。
だが、もっと興味深いのは、古の城下町が現在もそこで暮らす人々の生活に根づいているという点だ。どのように息づいているのかが分かりやすく解説された1冊が、『古地図から読み解く 城下町の不思議と謎』(実業之日本社/1500円+税)だ。
例えば水路。東京には首都高速都心環状線が走っているが、ここにはもともと川があった。首都高速は高度成長期に建設されたが、用地買収の手間を省くため、川を埋め立てて道路を造った。だから環状線は、あのようにウニャウニャと曲がりくねっている。
同書に掲載された江戸時代の古地図を見ると、かつての水路と現在の環状線とが確かに符合している。目からウロコである。
また、地名にも城下町の名残がある。大阪・谷町にある「空堀通商店街」は、豊臣秀吉が大坂城を築城した際、防御のために造った空堀が名称の由来だという。また、秀吉は城下整備の一環として下水を通したが、今もその一部が現役の下水道として活用されているという。
このように、城下町は市民生活の一部となって、引き継がれている。住む町を知りたいなら城下町までさかのぼるのが最適。監修は東京大学史料編纂所教授の山本博文氏。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
【話題の1冊】著者インタビュー 里崎智也
プロ野球 里崎白書 扶桑社 1,400円(本体価格)
★野球コンテンツを自発的に発信していく時代
――YouTubeの『里崎チャンネル』の登録者数が23万人を超えましたね。始めたきっかけは?
里崎 2014年から「ビックリマン終身名誉PR大使」に就任しているのですが、毎年4月1日の「ビックリマンの日」のプロモーションで始めたのがきっかけです。当初は1人で見よう見まねでやっていたのですが、その後、高木豊さんに声を掛けてもらい、いろいろとアドバイスをいただきました。昨年8月からはチームを作って、本格的に動画を配信しています。
自分のようなフリーの立場というのは、外部からの依頼を受けて、初めて情報を発信することができます。そもそもの手段が受け身なんですね。でも、YouTubeは自分の好きなことを伝えることができます。現在は“バラエティーベースボール”を掲げ、いろんな人に楽しんでもらえるコンテンツを配信していきたいと思っています。
――最近は野球人気が低下しているといいます。どのように感じていますか?
里崎 そこでYouTubeですよ(笑)。最近はプロ野球選手OBが始めるケースも増えています。動画を見て野球に興味を持ってもらいたいですね。もっとも、僕自身は、あまり野球人気が低下したとは思っていないんですよ。
そもそも、人口が減少しているのですから、絶対数が少なくなるのは当然です。今でも地方に行けば、野球をやっている子供たちは多いですよ。ラグビーやテニスのスクールなんてめったにありませんからね。野球は誰でも教えられるのがいいところなんですよ。
――いよいよ今シーズンが始まりますが、注目しているチームはありますか?
里崎 特にありません(笑)。というか、今年は選手の入れ替えが激しく、どのチームが優勝してもおかしくありません。昨年、丸がFAで広島から巨人に移籍しましたが、主力級の選手がチームに加われば、戦力は一気に上がるんです。巨人だって仮に坂本が移籍するようなことがあれば、安泰じゃいられませんよ。しいて言えば、今年は楽天がFAで大幅補強しましたから、戦力に厚みが出たことですね。
――本書や動画では、球界の裏話が暴露されていて好評です。今後はどんなことに挑戦したいですか?
里崎 野球と関係ないこともやっていきたいですね。フォロワーからニーズがあれば、試しながらやってみたいと思っています。動画は再生回数を見れば反応がすぐに分かるのでいいですよね。あ、でも技術指導だけはしませんよ。これは現場に僕を呼んでくれる人に悪いですから(笑)。
_(聞き手/程原ケン)
里崎智也(さとざき・ともや)
1976年、徳島県生まれ。鳴門工高(現・鳴門渦潮高)、帝京大を経て、’98年のドラフト2位で千葉ロッテマリーンズを逆指名。’05年にチームの日本一に貢献、’14年に現役を引退した。出場1000以上の捕手としてNPB歴代最小となる通算補逸19個という記録を持つ。