Aさんの消息が途絶えたのは6月13日の午後8時過ぎ。アルバイトを終えたAさんは友人宅でテスト勉強をする約束をしていた。また、アルバイト先近くにあった公衆電話から友人の元に電話をかけていたのが警察の捜査で判明している。しかし、6月14日の午前0時を過ぎても友人宅にAさんは現れなかった。その後、心配した友人がAさんの家に電話をかけてAさんの家族と一緒に付近の捜索を開始したという。結局、Aさんの姿を見つけることは出来ず、午前2時過ぎに地元警察署に通報した。
ここから警察の捜査が開始されるのだが、Aさんの友人たちはAさんのポケベルに各自の自宅電話番号を載せたメッセージを送り続けていたそうだ。すると、友人の一人が何者かから無言電話を受け取るようになった。数日後には男が声を出すようになり、「Aさんを駅に送って別れた」「Aさんのお金を貸しており、担保としてポケベルを預かっている」などと話したという。さらに、6月25日には、男から「ポケベルを返すから取りに来てくれ」と電話が入る。友人とその母親が指定された場所に向かうと、男はいなかったがAさんのポケベルが置いてあったそうだ。
6月27日午後8時、再び男から電話が入る。「ポケベルは受け取ったか」という内容だったが、これを警察が逆探知することに成功。警察が逆探知先の公衆電話に急いで駆け付けると、一人の男性Bがそこにいたという。警察がBを調べてみたところ、ポケットからAさんのハンカチが発見された。さらに、電話の声とBの声紋が一致したことから、警察はBを誘拐の容疑で逮捕した。
その後の調べにより、Bは婦女暴行の前科で12年服役した人物であることが判明。過去の犯行手口は、自転車に乗っている女性を車で体当たりして転倒させるというものだったが、当時Bが所有する白いワゴン車にも衝突したような跡が残されていたという。さらに、BのワゴンからはAさんの辞典と毛髪約100本、繊維片が採取された。また、以前からAさんが「白いワゴン車に付け回されて怖い」と漏らしていたことを友人たちが証言した。
しかし、Aさんを誘拐したという決定的な証拠が足りなかった。状況証拠は真っ黒だったものの、有罪に持ち込める材料が無かったそうだ。結局、Bは拘留期限まで黙秘を続け、警察は証拠不十分として釈放した。
なぜBはAさんの私物を保有していたのか。ワゴン車の傷、Aさんの毛髪100本など不可解な証拠は数多く残されている。三重県と言えば、1998年に当時24歳の雑誌記者女性が失踪した事件も未解決のままだ。雑誌記者の事件では、警察が早々に家出と断定したものの、後に訂正するという事があった。Aさんの行方、事件解決に不足しているものは、一体何だろうか。