8月31日、缶入りの烏龍茶を飲んだ後に突如意識を失ったAさんはすぐに救急車で運ばれたものの、病院に到着した時には既に心肺停止状態だった。医師による治療も行われたが、午前9時12分には死亡が確認された。病院側は死因を心不全と診断したものの、念のために警察に検視を依頼。しかし、警察による検視でも異常は見られなかったため、そのまま心不全として処理されることとなった。
事態が動いたのは、翌日の9月1日午後1時過ぎ。Aさんも利用していた地元スーパーで不審な缶烏龍茶が発見されたのだ。店内の在庫管理をしていた店長が缶烏龍茶の変形を確認し、売り物にならないことから自ら飲むことにしたという。しかし、缶烏龍茶を一口飲んだ店長はすぐに中身の異変に気付く。普通の缶烏龍茶とは異なる異臭と苦みの強い味がしたそうだ。店長は警察に不審物として提出することにした。なお、店長は少量のみ口にしたため無事だったそうだ。
警察が缶烏龍茶を調べると、缶の底にキリで開けられたような直径5.6ミリの穴が見つかったという。穴は接着剤で塞がれていて、缶の製造番号が何者かによって消されている状態だった。警察は詳しい調査を実施するために科学警察研究所に問題の缶烏龍茶を輸送。すると調査の結果、致死量20人分に値する約5グラムの青酸化合物が缶烏龍茶から見つかったという。
9月3日には、毒入り缶烏龍茶の事件が新聞紙やテレビ局を通じて報道されるようになり、Aさんの家族も自宅にあった缶烏龍茶を警察で調べてもらうことにした。結果は、スーパーで発見された缶烏龍茶同様に、Aさんが飲んだ缶烏龍茶にも缶底に穴と接着剤の跡、さらに青酸化合物が発見されたという。科学警察研究所がAさんの遺体を調べると、やはり体内に残された血液から青酸の反応が確認された。
長野県警は無差別殺人事件として捜査を開始。捜査員を大量に動員し、県内全域を対象とした大掛かりな捜査を進めたが、有力な手掛かりを掴むことは出来なかった。
一体、誰が何の目的で缶烏龍茶に青酸化合物を混入させたのか?問題の缶烏龍が販売されていたスーパーは街なかに存在し、利用者のほとんどが地元の人だったという。また、スーパーの中でも、防犯カメラが設置されていない場所だった。以上のことから、警察は犯人が土地勘のある人物ではないかと想定したそうだ。さらに、昭和25年に施行された毒物及び劇物取締法により一般人が青酸化合物を簡単に入手できないため、化学分野に精通した人物の犯行ではないかとも見られている。
1977年には、東京で青酸コーラによる無差別殺人事件という類似事件が発生していた。この事件も未だ犯人は見つかっておらず、未解決事件のままだ。犯人は今もまた、人知れず犯行のタイミングを窺っているのかもしれない。