杉内は19日の会見で、昨オフの契約更改交渉時に某球団幹部から、「FAしても名乗りを挙げる球団があるのですか?」といった主旨の発言をされ、球団への不信感をぬぐえなかったことが移籍の大きな要因となったことを涙ながらに語った。
同球団は杉内引き止めに当たって、4年総額20億円を提示。巨人の条件も同等で、金銭的な条件に差はなかった。移籍するとなると、引っ越しを伴うが、「1年、野球に集中すれば、わだかまりもなくなると思っていたけど。ただ、個人の感情的なことで移籍するのは正直、大人げないと思う。でも、感情の部分が戻らなかった」(杉内)と語った。
球団には某球団幹部への苦情の電話やメールが殺到。インターネット上でも批判が相次ぎ、孫正義オーナーの逆鱗にも触れた。孫オーナーはツイッターで「厳しく処置したく思います」と書き込んで、担当者への厳罰を予告していた。
責任を取って辞任をさせられたのが小林取締役で、昨オフ、杉内に非礼な発言をしたのは同氏であったことが判明した。辞任に当たって、小林氏は「杉内投手が残留できなかった点と、ファンにご迷惑を掛けることになった責任を取りたい。不用意な発言で杉内投手にご迷惑をお掛けした。誤解を生む発言をしてしまった」と話しているという。
小林氏は91年のドラフト8位で指名され、翌92年に千葉ロッテに入団。史上3人目(当時)の東大出身のプロ野球選手として話題になった。しかし、1軍登板はなし。2軍ですら1勝もできず、わずか2年間で自由契約となり現役引退。米国に渡って、コロンビア大学経営大学院を修了し、ケーブルテレビ局「ザ・ゴルフ・チャンネル」で通訳、翻訳、解説などに従事。帰国後、江戸川大学社会学教授などを経て、05年に同球団取締役に就任。昨年からは編成育成担当部長を兼務していた。
球界では数少ない東大出のエリートフロントだが、今回の件はまさに“口は災いの元”の典型的な例。移籍を決めた杉内は地元福岡県出身で、球団としてもファンとしても、生涯ホークスを貫いてほしかった選手。杉内の流出は単なる一FA選手の移籍ではすまされない問題で、同球団にとっては痛い話だ。
(落合一郎)