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原発事故も電力自由化も何のその 東電 関電 “シャンシャン総会”舞台裏

 電力小売り全面自由化が始まって3カ月。取り巻く環境は激変しているが、そんな中、6月28日に全国九つの大手電力会社で一斉に株主総会が開かれた。

 東京電力では福島第一原発事故で炉心溶融(メルトダウン)が起きていたことを隠蔽していた問題について、廣瀬直己社長が「広く社会の皆さまにご迷惑とご心配をお掛けしていることをおわび申し上げます」と陳謝し、再発防止を徹底していくと述べ、株主からは脱原発など10議案が提出された。株主は「事故の教訓を生かすなら、即刻、原発から撤退するべきだ」と迫ったが、東電側は「国が重要な電源と位置付けている」と反対し、採決で株主提案はすべて否決された。
 「質疑応答では、脱原発を求める株主がいた半面、複数の株主が『原発を再稼働すれば電気料金は下がるはずだ』などと原発の早期再稼働を求めていました。中には『災害に強い原発を作る必要があるし、日本の原発技術は世界一。反原発の朝日新聞やその読者は悪そのもの!』と“主張”する女性株主もいました」(総会を取材した経済誌記者)
 所要時間は昨年より40分短い3時間3分で、過去最長だった2011年の6時間9分から半減した。総会出席者も1321人と昨年より4割近くも少なく、過去最多だった同じく'11年の9309人からは8割以上も減った。投資した会社の利益最大化を求めるのが株主の常とはいえ、事故の記憶が薄れて風化しつつある現状が垣間見える。

 一方、関西電力の総会には大阪市の吉村洋文市長が初めて出席した。株主である大阪市は、京都市と共同で再生可能エネルギーの導入推進や脱原発を求める5議案などを提案、吉村市長は強い口調で原発の速やかな廃止を求めた。
 「福島原発見てください。あの事故いまだに収束していない。国家の一部がまさに消滅するような、そんな危険な電源リスクに頼っている。もし重大な事故が起きたとき、もし琵琶湖が汚染されたとき、どうするんですか。関西終了ですよ」

 発言は制限時間の3分を超え、議長が「4分を超過いたしました。簡潔に発言をお願いいたします」と制止に入った。しかし、吉村市長は続ける。
 「大阪市は9%の株式を持つ筆頭株主なんですよ。ちゃんと意見を聞いてくださいよ。1年に1回の株主総会で、なんで大株主に対して意見を聞こうとする機会を持たないんですか。おかしいじゃないですか」

 結局、吉村市長は5分37秒話し、これに対して八木誠社長(総会後に会長就任)は「ただいま大阪市さまからいただきました貴重なご意見につきましては、今後の経営に生かしてまいりたいと考えております」と官僚的な答弁で応じた。
 大阪市と京都市共同の株主提案も含めすべての株主提案は否決され、経営陣の発言に対し「説明になっていない」などと株主からヤジが飛び交った。吉村市長は総会後、報道陣に対し「関電側からすれば原発再稼働ありきで“答え”は決まっている。不満のガス抜きの場としか見ていない」と苦言を呈した。

 さて、今年はどの大手電力の総会でも、電力自由化が議題になることは昨年に比べてかなり少なかった。というのも、心配されたほどユーザーが流出していないからだ。6月上旬の時点で契約切り替え件数は約111万件。これは契約総数の2.2%にすぎない。また、切り替えは首都圏で6割以上を占めているので、地方の大手電力会社はほとんど脅威に感じていないのかもしれない。
 「どの電力会社も短期的には原発再稼働を急ぎたい。業績のために石炭や液化天然ガスなどの燃料コストを安く上げようとするからです。ただし、原発は近い将来、老朽化施設の追加安全対策費用のために大きなコストが必要となる。これは会社と株主の双方に大きなリスクです。それでも今年の総会が“シャンシャン”に近い形だったのは、史上空前の原油安だった恩恵を受け、各社の決算が黒字だったから。例えば、東電は火力発電の燃料費が1兆円以上も減り、対前年比で経常利益が1000億円以上の大幅プラスとなった。電力自由化と原油価格、この二つは今後も不確定要因として大手電力の経営の屋台骨を揺らし続けるでしょう」(前出・記者)

 原油価格の乱高下はいつまで続くか、エコノミストでも見通せない。自由化については日本人は消費行動が保守的なため、まだ様子見の人が多い。しかし、今後は契約を切り替える人が少しずつ増えるだろう。
 もし、原発再稼働に突き進む大手電力に三くだり半を突き付けるべく、多くの消費者が契約解除をすることになれば、倒産する大手電力が出てきても不思議ではない。それは、自由経済のダイナミズムとしての証明とも言える。

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