そのうえ、喪失当時の南アフリカ沖は悪天候が続いており、予定日から数日程度の遅れもままあることと考えられた。そのため、捜索が始まったのは入港予定日から数日後で、また風浪に流された可能性が高かったため、当初から捜索範囲は非常に広かった。結局、なんの手がかりも得られないまま数か月が経過、ワラタ号は行方不明のまま捜索は終結してしまい、乗客や乗員は全て死亡したものと認められた。
しかし、ワラタ号と同じ航路を航行していた他の船舶は、より小型のものも含めて無事に到着している。いかに悪天候だったとはいえ、大型商船が乗客乗員もろとも沈没し、残骸も発見されないということが、本当に起こりえるのだろうか?
ところが、ワラタ号の消失が報じられた直後から、とあるまことしやかな噂が流れ始めた。それによると、ワラタ号には安定性不足という欠陥があり、今回の喪失は予め予期されていたというのだ。
事実、ワラタ号は処女航海の直後から安定性不足が指摘されており、欠陥商船との見方もあった。そのため、出港日程を変更してドック入りし、船舶保険の検査官などによる厳重な審査を行った結果、指摘されていたような欠陥は証明されなかったことから、いったん噂は否定されていた。しかし、ワラタ号が行方不明となったことから、その噂が蒸し返されたのである。
特に注目されたのは、ワラタ号の消失直前にダーバンで下船した技師がロンドンの妻へ送った電報で、それには「ワラタ号は上部が重く、不安定に感じた」との文章が含まれていたのだ。この電文は消失が判明する以前に打電されており、ワラタ号の欠陥を示す証拠としてにわかに注目されたのである。
ワラタ号は、本当に欠陥を抱えていたであろうか?
(続く)