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中途企業採用試験で200社以上落ちた男

 私の知人でN君という男がいる。彼は高校を卒業後、大手自動車メーカーの子会社工場に入社した。大柄な男で、きわめて真面目そうな外見をした男だった。

 それは彼が30歳の時に突然のリストラだった。普通は年配者からリストラすると思われるのだが、彼の会社の場合は若手をリストラしたという。その理由は中高年よりもすぐに職に就けるだろうという判断だったと言う。
 N君は当時、工場勤務のストレスから十二指腸潰瘍を患っていた。痛みが酷いときは食事も取ることが出来なかったという。リストラ直後には、彼はすぐに次の仕事探しを始めた。しかし、不況の中、なかなか仕事は決まらない。しまいには失業保険も切れそうになってしまったが、N君は職業訓練学校に入学して、更に失業給付を延長してもらったと言う。
 そして、彼はそこで工事担任者試験3級の資格を取り、卒業と同時になんとか電気工事会社へ就職することができた。しかし、彼は試用期間を満了になる前に解雇された。それは僅か入社一週間後の事だった。N君の話では仕事中に光ケーブルを踏んでケーブルを折ってしまい、上司に殴られて解雇されたという。光ケーブルとはケーブルの中にガラス線が入っており、非常に高価で脆い。何でもN君は十二指腸潰瘍の薬の中に、極度に強い精神安定剤が含まれており、それを飲むと小一時間意識がなくなるのだという。

 その後半年ほどして、彼は某家電量販店に再度就職した。そこでは当初、荷物の配送係でチームを組んで配送を行っていたという。そこでも彼は、上司に足で蹴られて会社を解雇されたという。彼には何故自分が悪いのか、理由が見つからなかったという。恐らくは薬の作用で意識が朦朧としている時に、仕事で重要なことを言われているのだろうと思う。彼は遠い意識の中で、恐らくは「はい」と答えている気がする。その後ふと我に返り、言われたことを何一つ覚えていないのではないだろうか。それで無ければ、一度や二度の失敗で普通は解雇されないと思うのだが。

 失業後、丸2年経っても彼は新しい職を得ることが出来ず、応募した企業は200社まで数えていたそうだが、その後は数えるのを止めたという。
 その後しばらくして、彼は新興宗教に入信し、熱心に布教活動を行った。私の所にも熱心に勧誘に来たものだから、その後はしばらく連絡を取らずにいた。懐かしさもあり、先日久しぶりに電話をしてみると、N君は現在コンビニでバイトをしながら、細々と暮らしているという。
 現在彼は40歳独身。彼のような経験をしながら暮らしている人間は、彼一人ではないような気がするのだが。
(藤原真)

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