当初、福岡県警は無理心中と見ていたが、7日未明になり、一転、殺人事件と断定し県警小郡署に捜査本部を設置した。8日夕方に由紀子さんの夫で福岡県警本部通信指令課の巡査部長・中田充容疑者(38)を、由紀子さんに対する殺人の疑いで逮捕したのだ。
「現場では、由紀子さんの首に絞められた際に生じる索状痕が確認できなかったが、司法解剖の結果、首の筋肉に複数の皮下出血が認められた。さらに首の骨にはヒビも見つかっており、相当な力で圧迫されたと考えられる。これらのことから、急きょ殺人に切り替えることになった」(捜査関係者)
事件発覚時、2階建て民家の玄関ドアは施錠されていなかったという。さらに警察発表によれば、死亡推定時間について由紀子さんは6日の0時〜6時、子供2人が同日午前0時〜5時と幅があり、中田容疑者が出勤のため自宅を出たという6時45分頃までの時間と重なっているものの、詳細はいまだ謎だらけだ。
そこでまず、事件当日の経過を振り返ってみる。
午前7時前に職場に出勤した中田容疑者の元へ、8時半頃、2人の子供が通学している小学校の担任から、「登校していない」との連絡が入ったという。中田容疑者はこれを受け、すぐに近所に住む妻の姉に電話。家の様子を見に行くように指示した。
「その後、中田容疑者は偽装のためか由紀子さんの携帯電話に4度電話を入れ、3度は誰も出ず、4度目に出た姉から『妹が無理心中したようだ』と伝えられている。中田容疑者がそれを上司に伝えそのまま処理に入ったことで、当初は無理心中の可能性が強いと見て捜査が始まったのです」(全国紙社会部記者)
家に捜査員が駆けつけた際には、1階台所に頭髪が半分ほど焼け焦げた状態の由紀子さんが仰向けで倒れていた。そばには燃えかけの練炭が置かれた上、周囲に油が撒かれ、室内には燻った煙が充満していたという。一方、2人の子供は2階の寝室のベッドでうつ伏せになり息絶えていた。
母子3人の死因はいずれも窒息死。中田容疑者は「家を出たときは3人とも(2階の寝室で)寝ていた」と容疑を否認している。
中田容疑者が県警本部に就いたのは、昨年の8月だった。福岡県内の私立大学卒業後、警察学校を経て'02年10月に任官後は、県警管内警察暑の地域部門勤務が長く、交番勤務や自動車警ら隊に就いていたという。最近では久留米市や筑後市などの警察署を転々とし、現在の県警本部通信指令課へ転勤した。同課は110番通報を受けつける部署で、「可もなく不可もない普通の勤務ぶりだった」(県警関係者)というが、この転勤には“異様さ”も漂う。
「本来であれば本庁への転勤は栄転です。しかし、周辺関係者によれば、中田容疑者は“転勤願い魔”として有名で、この10年ほどの間に5回も願い出て、転勤していたという。しかし、転勤先では毎回のように人間関係を巡っていざこざを起こし、また転勤願いを出すという繰り返しだった。そんなことから昨年8月の異動は、県警本部の監視下に置くという意味合いが強かったようなのです」(地元記者)
由紀子さんも前任地の筑後市で近所の人に、「お父さんの転勤には必ずついて行く家族なんです」と冗談交じりに語っていたという。
「しかし、さすがに“定住”への願望が強くなったようで、2年前に由紀子さん主導で姉、そして母親の家とも近い現在の家を、ローンを組み2100万円で購入したといいます」(同)
転勤癖のある中田容疑者にしてみれば、そのような状況に強い抵抗感を抱いていたのか。夫婦を知る人物によれば「特に最近はケンカが絶えなかったようだ」という。
加えて、そんな事態に油を注ぐような出来事が事件発生前日に起きていた。
「福岡県警では、早い人でだいたい30歳、遅くても40歳までには警部補に昇進する。巡査部長だった中田容疑者も、これまで何度も昇進試験を受けていたが不合格だった。子供の将来を心配する由紀子さんは早く昇進して欲しかったようで、不合格になるたびに中田容疑者に詰め寄り、それがまたケンカの原因になっていたようです。そんな中、5日にも警部補昇進の二次試験の結果発表があり、中田容疑者はまたも不合格。ひょっとするとそれが、事件の引き金になった可能性があるのではないか」(福岡県警関係者)
DNA鑑定の結果、由紀子さんの遺体の爪に残された皮膚片が中田容疑者のものと一致。それを裏付けるかのように、中田容疑者の腕には引っかき傷も見つかっている。
「さらに由紀子さんの遺体の周囲に撒かれた油の上には複数の足跡が残されており、これが中田容疑者の当日履いていた靴底と一致しているという。そのため中田容疑者の関与はさらに強まってはいますが、そもそも、夫婦ゲンカがきっかけで、自分の子供2人まで殺めることができるのか。近隣住民の間では、共犯者の存在まで囁かれているのです」(前出・記者)
全容解明が待たれる。